コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 俺の幼馴染みが橋の下に住みついたようです。 ( No.3 )
日時: 2012/08/22 19:24
名前: なちゅら (ID: Fhb4zUz0)

第一章 ふざけんなよ馬鹿!!!
①俺の幼馴染みが消えたそうです。

 「紅浬—————っ!!!」 
何時間歩いただろう。何時間走っただろう。3時間くらいか。
 家を出たときは夕焼けだったのに、今ではすっかり真っ暗だ。
 藍色の空には、飛行機が光って飛んでいる。
 くっそ、紅浬の奴どこに行きやがった。
「紅浬———————————!!!!!」
出てくる気配さえしねぇ。どういうこっちゃ。
 誘拐? そんなわけねぇよな。あいつ、身体能力だけはズバ抜けていいし。もし、肩なんか触られたとしたら、理由も聞かずに相手を投げ飛ばすであろう。
 ある意味、最強だからな。
 
 そんな俺の幼馴染みが、“失踪”した。
 母さんが紅浬のボロアパートにちょっと届けものをしに行ったところ、家には誰もいなかったらしい。その上、家具もない。紅浬の脳内同様、スッカラカンの状態だった。
 それで、探して来い、と。
 まさに“俺損”じゃねーかよ。疲れる、時間は無駄になる。学生ってのは1時間1時間がすっげー大事なのによ。
 メールも電話も、応答無し。マナーモードにでもしてるのか、はたまた、分かっていて無視しているのか。
 竜輝は頭をかく。汗が冷えて少し寒い。
「くっそ〜、ふざけんじゃねぇよ」
ここらのコンビニは既に20件以上まわった。それも、何回も。他にも、紅浬が行きそうなところにはほとんど。他に、あいつが行きそうなところって———……。
 思いつかない。それでもまた歩くしかない。このままじゃ、気が済まない。
 次は、——そうだな、本屋でも行ってみるか。本なんかは、絶対に読まないが、漫画だけはめちゃくちゃ持ってるもんな。もうヤケだ。
 駆け足で、近所の夜10時まで営業の本屋に行く。
 しかし、いない。
 ひょっとしたら、この町にはいないんじゃないか。そう、思えた。

 「あ。」

 そういや、1つだけ、あたってないところがあったな……。
 ダメもとで行ってみるか。
 
 そうして、竜輝は駆け出す。
 道路を照らす街灯に、蛾が集まる。外灯の下を、彼はひたすら走った。
 
 辿りついたのは、河川敷。近くには大きな橋もある。
 彼の思い出の中で、彼女は何か嫌なことがあると、ここの河川敷に来ていた。竜輝が来たときには既に泣いていて、竜輝が来たのが分かると、彼に八つ当たりして、蹴飛ばして、それでまた泣いて。竜輝は散々な目にあっていた。
 

 「竜輝……?」

 
 ふいに、後ろから、昔からずっと聞いてきた声が聞こえた。
「紅浬・・・・・・。」
竜輝は、慌てて声の方を向き、声の主の名前を呼ぶ。
 彼女は、やはりそこにいた。

 「どうし
 「ふざけんじゃねーよ、手前はよぉ!!!」

 紅浬の言葉を遮り、竜輝は怒鳴った。紅浬はビクリと肩を震わす。
「あ? 手前、何がしてーんだよ? ふざけんなよ馬鹿!!! 勝手にいなくなって俺が喜ぶとか思ってんのかよ? 馬鹿だろ? ほんっとに馬鹿! どんだけ心配したと思ってんだ!!!」
そこまで言うと、竜輝はへなへなとコンクリートの地面へ座り込む。
「あー、もう疲れた。帰るの面倒臭ぇ。」
胡坐をかいている竜輝に対し、紅浬は微妙に泣き顔。
「竜輝……。あのさ、それって……。私のこと心配とか、喜ばないとかって……。」
紅浬が俯いて言っていたせいか、竜輝にはよく聞こえなかったらしい。
「あ? なんだよ、こっちは疲れてんだっつーの。まだ何かあんのかよ。」
ややご機嫌斜めの竜輝に、それ以上何か言う気にもなれず、紅浬は白い歯を見せてにっと笑った。
「何でもないよ」
と。

 そして、竜輝の傍に座る。
 川のせせらぎだけが、静かに響いていた。涼しい夜だった。
 外灯が照らす、竜輝の顔は本当につかれきっている。竜輝の体を支えている右手に、紅浬は左手を置いた。
 竜輝は、少し、いやかなり驚いた顔をしたが、何も言わなかった。疲れているせいか、はたまた、呆れているのか。
 そして、空を見上げる。携帯を開くと、時刻は午後9時55分。それでも、帰ろうとはしなかった。
「紅浬、あのさ」
竜輝は声を上げた。
「えっ、何?」
振り向いた時、紅浬と目が合い、気まずそうに竜輝は目を逸らした。
「やっぱいいや」
「は!? えっ、何!? 私、何かした!?」
慌てる紅浬に対し、竜輝はけらけらと笑った。
「今、お前と目合わなければ言ってた。」
「はぁ!? じゃあ、次は目、合わせないから! ずっと、あっち見てるから!!」
「無理ー。チャンスは1回きりでーす。1回1回を大事にしてくださーい。」
「ちょ、冗談きついよ〜・・・。ねぇ、いいじゃん。」
「やだ。つーか、お前叩くのやめろ。今すぐやめろ。」
言う気が無くなった竜輝の背中をバシバシ叩きながら、紅浬は携帯を取り出し、誰かにメールを送る。
 ふと、竜輝の携帯のメール着信音が鳴り響いた。
「誰だよ……、こんな時間に。」
ぶつくさ文句を言いながらも、メールを開くと、そこには紅浬からのメールが。

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2012/7/12 22:07
紅浬

何て言おうとしたの?
教えないと、頭ぶち抜くぞ♪

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 にやにやと笑う紅浬。竜輝はわなわなと震え上がり、
「てんめぇぇぇぇ————っ!!! ふざけるのもいい加減にしろこのクソガキがぁぁぁあ!!!」
そんなことを言いながらも、竜輝は鬼の形相でメールを作成した。そして送信。
 紅浬はメールを受信したのを確認すると、メールを開いた。

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2012/7/12 22:08
竜輝

……何?
もしかして期待してんの?
 
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 紅浬の顔は真っ赤に茹で上がる。
「ふっ、ふざけないでよ馬鹿っ!! 何考えてるの!? 死ねば!?」
罵声を竜輝に浴びせ続ける紅浬。
「いや〜? 別に紅浬ちゃんがしつこく聞いてくるから、そうなのかなぁーって思っただけ〜。」
竜輝はわざとらしく返す。実際、わざとだが。
「さーて、そろそろ帰んぞ。もう眠ぃし。」
立ち上がる竜輝、しかし、紅浬は座ったままで、立ち上がろうとしない。
「おい、紅浬? おふざけはもう無しだ。」
竜輝は呆れながら紅浬を見下ろしていたが———……。
「紅浬? もう本当にいい加減にしてくれよ? 今日は俺の家に泊まればいいから。」
なかなか立ち上がらない紅浬に対して、竜輝はなお声をかけ続けるが——……。

 「竜輝、あのさ——……


 私、死んじゃったんだけど、どうすればいい?」

と、気弱に笑ってみせるのであった。