コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Link! 【コメ求む!】【テスト期間!オワタ!更新も】 ( No.30 )
- 日時: 2012/09/03 15:20
- 名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
- 参照: 元零華です
キリはマスターに連行されたものの、意思は回復していない。
気絶している間、彼は記憶の海を漂い続けていた。
彼の記憶の海は彼が、この世界に来たときから始まっていた。
その日、鈴木 陸は大急ぎでバイクを駆っていた。
「間に合うかぁ?」
出勤先の会社まで後5km程だが、時間も僅かだ。
距離は徐々に縮まっているがそれに比例して時間も消えていく。
焦りが積もり積もって、いつもは通らない裏道に入った。
その裏道というのが問題で、道幅がやっと車一台通れるくらい、近くに小学校があるということもあって子供が多く、カーブミラーの脇にも、「子供飛び出し注意!!」と看板が掛かっている、事故多発の危険道として陸は認識していた。
「うぉっと……」
飛び出てきた赤いランドセルを背負った影をからがら避ける————。
が、飛び出してきたのは他にもあった。角を曲がってきた車に正面からぶつかる。
衝突、衝撃。
何がどうなったか考える時間も無く投げ出される。
自分の体から赤い液体がドロドロと流れ出るのが見えた。
——俺、死ぬのかな…………
薄れ行く意識の中で、ゆっくりと思考は進む。
「くっそぉぉぉぉぉっっ!!!」吐き出そうとした叫びは声に為らず、ついに陸の意識は事切れた。
小学校の頃————暗黒の時期、虐められ虐げられ、学んだ事と言えば一つ。逃げること、逃げること、逃げること。
中学校————暗黒は続く。
高校、大学————闇は更に暗くなり、密度をましていく。
そして、社会人となった。この時期になって、やっと虐げられる時代が終り、陸の世界は少しずつ明るくなっていった。
「三日前、バイクで走行中に車で跳ねられる……へぇー、車って魔導四輪の事かな?」
「……ん……うん」
止まっていた思考が徐々に解凍されていき、陸は目を開けた。
「うわぁっ!」
第一声。陸が大声を上げたのには理由があった。
目を開けた途端、目の前にネコミミの美女がいた。
すらりと背が高く、真紅のショートヘアーが良く映えている。更にその上にちょこんとネコミミが、
「あ、起きた」
解凍された頭から記憶と疑問の波が押し寄せてくる。『俺は死んだ筈だ』とか『この人誰だ』とか『此処何処だ』とか。
周りを見渡す。真横にネコミミ美女、離れた場所に粉々であろうはずのバイクが新品同様になって置いてある。
何故…………?
回答は誰からも寄越されなかった。しかももれなく大変な頭痛がセットでついてくる。
思わず目を瞑ると、ネコミミ美女が上から覗き込んできたのが気配で分かった。
「あんま考えない方が良いよ。まだ混乱してるだろうから」
「あ…………ぁ」
情けない返事をしてから、そういえば、と、自分の体を良く見る。
体は全くもって傷付いていない。
「私はカノン、治癒魔法を施しておいたからね、貴方、傷だらけだったから」
それにしても、とカノンが続ける。
「何があったの?森を歩いていたらいきなり傷だらけの貴方が瞬間移動してきた……というか無意識に移動した。って感じかな。驚いたんだからぁ。」
瞬間移動……?
自分の知らない単語が次々出てくる。
「あの……瞬間移動て」
「え、だって貴方血に染まりながらヒュッと現れたし、空間移動魔法じゃないの?」
「いや、だから空間移動魔法ってヒュッて消えてヒュッと現れる瞬間移動の事?」
「それ以外に何があるの。いやー、良くあんな高等魔法を使える……え、空間移動魔法知らない?」
話を聞いて、驚いている陸の顔を見て、疑問を口にするカノン。
「知らない。魔法?何のこっちゃ」
「………………………」
長い沈黙、やがてカノンが口を開いた。
「もしかして、頭でも打っておかしくなっちゃった?」
「頭はおかしくない。てゆうか此処何処、てっきり病院とかに居ると思ったんだけど」
「ねぇ、ホントに大丈夫?魔法を知らない何てまるで……」
————違う世界から来たみたい。
その言葉に息を呑む。
新品同様のバイク、傷ひとつない体、聞いたこともない『魔法』や『瞬間移動』。
思い付く単語は二文字。
転生、とか。
「……今から俺の言うことに口出しせず答えてくれ」
陸の口調が変わったのを察しカノンが神妙に頷く。そして、取り返しのつかない質問をした。自分の世界から完全に切り離されてしまう可能性のある質問を。
「此処は、地球の、日本じゃあ無いのか」
「此処はバックランド、世界でも五本の指に入るくらいの有名な国。日本とかいう国は知らないわ」
ほぅ。
自然と溜め息が漏れる。
あぁ、もう元いた世界には戻れないんだな、そう感じた。
でなければ本当に頭がおかしくなったのかもしれない。
陸は諦めた。
そして諦めは決意に変わった。
この世界で生きていくと。
「なぁカノン、俺にこの世界の知識を教えてくれ。少しずつで良い、幼児レベルの事から全て」
「少しずつ?私を誰だと思ってるの、記憶を操る魔法は私の十八番よ。何か事情があるらしいからやってあげるわ。直ぐに終わらせてあげるから。その代わりに貴方の事も全部教えて貰うわよ。気になって仕方無いし」
頷いてまた目を瞑る。
「行くわよ!」
急に目の前が明るくなり、思わず目を薄く開く。陸の目の前に魔方陣と思わしき光の円が出ている。
「うぅぅっっ」
圧倒的な量の知識が脳に入ってくる。しかしその痛みも直ぐ収まってきた。
「ねっ!すぐ終わったでしょ」
「んん……今なにしたの?」
「私の知識の記憶を貴方にコピーしたの。さて、まず貴方の名前は?」
「鈴木陸」
「スズ……キリ……ク」
どこか違う気がする。
「よし!長いから間を取って………キリでいいわよね」
鈴木のキと陸のリを取ってキリか、確かに間を取っている。と納得。
「じゃあキリの事教えて」
キリはゆっくりと話始めた。
「まず、俺はこの世界の人ではない。言うなれば異世界人だ」
「異世界?」
「俺は、〝地球という星″の〝日本″に住んでいた。それで、車に跳ねられて死亡」
「はーい、質問」
カノンが学校の生徒の様に手をあげる。
「車ってなんですかぁ」
「車……うーん、ガソリンっていうエネルギーで動く乗り物……かな」
「えぇーっ!あんな効率の悪いエネルギーまだ使ってんの!?」
「え、ガソリンあんの」
と言って急いで記憶を探る。この世界にもガソリンは存在するようだ。
「今はもうほとんどがバイオエネルギーと魔力のハイブリッドね」
「バ、バイオエネルギーと魔力……すげぇ」
「それで」
「気付いたら此方にいたんだけど」
「ふーん…………それなのに随分と落ち着いているわね、いきなり知らない世界に来たのに」
それはなぜかは分からない。キリは自分でも驚く程落ちていた。
「ねぇ……戻りたい?」
カノンが躊躇いがちに聞く。
「戻りたくないと言ったら嘘になる。でも、今戻りたいとは思わない。戻りたくても戻れないでしょ」
「各地で時空の歪みっていうのが目撃されてるの、でもね……それは100年に一度くらいの話で……」
カノンの顔が曇る。
「戻れる可能性は低い、か」
「しかも、何処へ行けるか分かんないって話なの……」
だとすれば帰れる可能性は限りなく0だ。でも、キリは帰るつもりはなかった。
「俺は此処で生きるさ。前の世界が嫌いなわけでもないけど大好きって言える程の幸せも無かったし」
特に大人になるまでは。
何を察したかカノンが少し悲しそうな顔をした。実際はキリの記憶を覗き見ただけだったが。
「ねぇ、提案なんだけど、私と旅しない?」「え、旅?」
「そっか、知らないか。この世界で生活するにはお金を稼がないといけないわね。で、一番手っ取り早く金を稼ぐ方法は、ギルドの連合に加盟して依頼をこなす方法ね。あ、ギルドは魔導師の集まりの事ね」
カノンの説明によれば、ギルド連合に加盟すると、カードを作って貰う事が出来、このカードに各ギルド固有の紋章をいれるとそのギルドに加入した事になるらしい。また、ギルドに入らなくても、依頼を請ける事は街単位で設置してある連合ギルドでも依頼は請けれるという。
「どう?キリはまだ何にも解からないだろうから私がしっかり鍛えてあげるわよ」
「え?何を?」
「勿論魔法よ!この世界で生きるならまず魔法を覚えなきゃ!」
いきなり魔法を覚えると言われてもいまいち実感が湧かないキリである。
「やってみればわかるって」
キリの不安そうな表情を見てカノンが笑う。ほっとしたキリだったが、この後の訓練が全く笑えない物になるとは知らなかった。
二人はカノンが建てたテントの近くに立っていた。
「じゃあまずは基礎中の基礎からね。あの岩を何かで壊すイメージをするの。何で壊すかは自由よ。——こんなふうにねっ!」
カノンの手に2つの魔方陣が現れ、その魔方陣からピンポン玉サイズの氷の塊が飛び出した。氷の塊はいとも簡単に岩を貫通し見えなくなっていった。
3個目の魔方陣が現れたが、今度は岩の上だった。
「凍てつく氷よ 芯から凍らせ消し飛ばせ!」
空いた穴からピキピキと音をたてて氷が広がり、岩全体を覆った。
そして、岩が砕け散った。
「おぉーっ!」
漫画やSFの中だけだった物が現実で、しかも目の前で見れて感激。拍手までしてしまった。
- Re: Link! 【コメ求む!】【テスト期間!オワタ!更新も】 ( No.31 )
- 日時: 2012/09/03 15:20
- 名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
- 参照: 元零華です
「ありがとう。…………次はキリの番よ」
「え、まじでやんの?」
「やるに決まってんでしょ!ほら、早く!」
「えー……どうやってだよ」
「取り敢えず右手に意識を集中させて!右手からボールを放つイメージよ」
カノンの言われたとうりに右手に意識を集中させる。すると————
「おおおおっっ」
右手の手のひらに黒い玉が浮かび上がってきた。固体でもなく液体でもない。地球でいうゼリーに似ている。
「ほら!それを前に押し出すイメージ!」
黒球を放つ。黒球は想像したより少し遅かった。そのまま岩に向かう。
岩にぶつかる。岩は砕けもせず、割れもしない。黒球は岩を透過していた。
「どうなっているのかしら…………私も見たことがない魔法だし……もう一度やってみたら?」
キリは言われるまでもない、ともうひとつ黒球を生み出して、放とうとしたとき、カノンの声が掛かった。
「まだ放たないで!色が……」
カノンは黒球を凝視していた。キリも気になって目をやる、すると——
黒球はもはや黒球とはいえない色になっていた。真っ赤に燃える赤色。
「放って!」
キリが放った赤い玉は空中で燃え盛る火の玉と化して岩に襲いかかった。
岩が炎に包まれ、暫くすると岩が溶けていた。
「こんな魔法が………………」
カノンの驚愕ぶりから、キリの魔法は初めてみた魔法だという事は分かった。
キリも自分が魔法を使った事に驚き、興奮気味だ。
だが、驚くのはまだ早いらしかった。
「もう一度だ」
3個目の黒球を作る、すると今度は淡い水色に変化した。
放つとそれは空中で水の塊になる。
結局の所、キリは<火><水><土><風><雷>の魔法を使用できた。
カノンがまだ何かあるかもしれないとキリに試させると、見事にこの五属性の魔法に黒球を変化させる事が成功したのである。
この五種類は魔法の基礎で、五大属性魔法と言われている。この五属性の魔法から派生した魔法の属性も数えきれない程ある。例えばカノンの<氷>も<水>の派生属性である。つまり、五大属性魔法を全て使えるとなると、
「ほぼ全ての属性が操れるって訳ね…………」
治癒や記憶を操るなど特殊な属性は無理だろうが、この五つがあれば膨大な魔法を使用できる。
カノンも五大属性を全て操れる人物などお目にかかったことが無い。聞いたことが無い訳ではないが、それでも世界で十本の指に収まるくらいだ。
普通は五大属性魔法は一人一つ、多くて二つ三つだ。
当の本人は色々な属性の魔法を組み合わせて遊んでいる。
「うーん……火魔法を風魔法で加速させて……いや、それでは火が消えるか……そうだ、いっそのこと土魔法と風魔法で砂を巻き上がせて火魔法で粉塵爆発を起こすか」
魔法を使えるか不安に思っていた筈がかなりのめり込んでいる。
「攻撃の手段よりまず防御が先よ」
ということでカノンの魔法を(といってもかなり弱くしてある)防御する訓練が始まった
- Re: Link! 【現在19話】 ( No.32 )
- 日時: 2012/09/05 12:04
- 名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
- 参照: 元零華です
「基本的に防御は土魔法がいいわ。他の四属性の魔法をほぼ完全にシャットアウト出来るからね。欠点は前が見えなくなること、そして見えない事で防御が崩れた時に攻撃を食らいやすい事よ」
防御の前に有難いお言葉を貰い、いざ訓練開始である。
まずカノンが氷弾をキリに向けて撃つ。それを土魔法で壁を作り防御。一発目は単発だったが二回目以降は連続で撃ってきた。
この連続の氷弾はさしもの土壁も耐えきれないだろうと判断し、火魔法で土壁を覆う。氷は溶けて、一瞬の内に蒸発した。
「これはどうかしら!」
カノンが風を起こし、それに雪と霰を混ぜる。即席吹雪が出来上がった。
キリは火魔法をドーム状に展開しようとしたが、イメージにむらがあったのかドームの一部にポッカリと穴が空いていた。
そこから吹雪が吹き込む。
「寒っ!ちょっ……ちょっとタンマ……」
しかし一向に吹雪は止まない。
「自分で何とかしろって事か……」
凍えた頭で必死に考える。
「そうだ!氷魔法には氷魔法!」
急いで直径二メートルくらいの黒球を作り出し、地面に叩きつける。ドーム型に水が広がった。それを直ぐに凍らせる。イメージしたのは日本の鎌倉だったが、中々上手くいったようだ。
外では吹雪が舞い踊っているが、分厚いドームに降り積もるだけだ。
少し余裕が出てきた時、急に吹雪が止んだ。
「おや?」
カノンが何をするのか分からないので、何が起きても大丈夫なように身構える。すると、キリの後ろの壁に小さな穴が空いた。気付けなかったのが致命傷だ。
穴から水が流れ込んでくる。その水量は最早一般家庭の蛇口の比では無く、小さい穴からこれでもかと水が入り込む。
ここでドームを崩すと上に積もった雪が一気に落ちてきて、キリが身動きをとれなくなる。かといってこのまま黙って見ていたら溺れ死ぬだろう(殺されはしないだろうが)。
巧妙な攻め方だった。
こうなったら仕方がないと、穴とは反対側に少し大きめの穴を作る。水はそこから流れ出し、何とか溺死は免れた。
一安心。と思っていると、キリが開けた穴から氷弾が連続発射された。
「ちょっとカノンさん!?これ殺す勢いじゃない!?」
撃ち出される氷弾はマシンガン顔負けの速度でキリを襲う。
「治癒魔法あるから大丈夫!」
「当たること前提か!!」
真面目に突っ込んでいる余裕は無かった。
氷弾は火魔法で溶かしていたが、溶けきらなかった物がキリの腕に、ブスッ! と効果音を着けたくなる程、綺麗に突き刺さった。
「うぎゃぁーーーーー!!!!」
キリの悲鳴が青空に響き渡った。
キリはテントの中で寝転がって治癒魔法を受けている。
「はい終わったわよー。これで明日も訓練頑張れるわね」
カノンがニッコリ笑う。表は天使だが裏は悪魔だと今初めて気づいた。
「……鬼」
「な・ん・か・い・っ・た?」
一文字毎にわざわざ間を開けてねじ込んでくる。
「うぅ……何でも無いです」
さっきの痛みは鮮明に覚えていて、黙るキリ。体の傷は治っても心の傷はなおらなかったようである。初めて会った時に、優しそうな人だ。とか思った自分が悔しい。
「まあ初めてにしては上出来って所ね。良く考えて行動出来てたし。さ、早くご飯食べて訓練再開よ」
時刻は昼過ぎ、カノンが持ってきた保存食で簡単に昼御飯を済ませ、訓練を再開した。
米は無かった。
「午後からは勉強よ!この世界の事を|確り《しっかり》教えて上げるからちゃんと聞いてなさい!」
「はぁーーいぃ」
キリの間延びした返事にカノンが氷の|礫《つぶて》を飛ばす。
これは何とか風魔法で剃らしたが、耳元を ヒュッと氷が通り過ぎ、少し背筋が寒くくなった。
「先生、危険行為はやめてください」
日本では、この場面で飛んでくるのがチョークだったからこそ笑っていられたが、この世界は氷の礫やら危険な物体が飛んできて笑ってなどいられない。
「なら真面目に授業を受ける事ね」
言い放ってまたニッコリ。
——チキショー悪魔め
この呟きは言わずに収めた。
「一時間目は地理でーす」
「はい」
「この世界は五つの大陸に別れています。私達が居るのがエリオ大陸の中のバックランド。他の国との交流が盛んな貿易国。別名が自然の国 と言われるくらい自然が多くて、鉱山とかも沢山あるの。だから高価な宝石やエネルギー資源も豊富なんだけど、回りが敵対してる国ばかりだから貿易は海と空に限られているの。大国だから治安は良いんだけど周辺国との戦争が激しくて……」
要するに資源が豊富という理由で目をつけられているのだろう。
「しかも最近はオスランって国の攻撃が激しくなってきて、戦争の回数も年々増えているわ。何やらバックランドの中に、エリオ国のスパイがいるらしいの。エリオ国は怪しい最新兵器を作ってサイボーグ兵士軍を造り出していて、それがまた厄介なのよ。ただの機械だって甘く見てたギルドの連合部隊が次々やられちゃって。もう大混乱」
「え、カノンって戦争行ったことあるの?」
「いや、普通にあるけど。戦争何て良くあることよ」
平和ボケした日本に住んでいたキリにはこれまた想像出来ない。
カノンには事前に日本の事を少し話していた。だからなのか、カノンは真面目に話始めた。
「キリの国は平和だったのよね。でも、此処で生きていく上で躊躇はいらない。躊躇って痛い目に会うのは自分なの。————いい、無駄な攻撃は必要ないわ。でも自分を傷付けようとする奴には容赦しちゃいけない」
カノンの口調はあくまで優しかったが、言っていることはキリには実行しずらい事だった。
だからカノンはキリに言ったのだ。この世界で殺されそうにになった時相手を殺す事を躊躇ってはいけないと。
——————躊躇ったら死ぬのは自分だ。
そう心に刻み込んで、再開した授業に聞き入った。
- Re: Link! 【現在20話】 ( No.33 )
- 日時: 2012/09/07 15:36
- 名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=29893
ワタクシ十六夜が設定資料集をつくりあした
見に来てくださいー
- Re: Link! 【現在20話】 ( No.34 )
- 日時: 2012/09/07 16:24
- 名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
「さて。二時間目はギルドについてでーす」
「はい」
あの後も授業は続けられ、二時間目に突入していた。
「ギルドの種類は大きく分けても小さく分けても三種類です。一つ、国連ギルド、国が運営・管理するギルドで、ギルド連合に加盟すると貰えるギルドカードを持っていれば誰でも依頼を請けれる。大きな街に一つずつ設置されてる。また、他国との戦争になった時、ギルドには攻撃してはいけない事になっているの。だから避難に遅れた人は皆此処に逃げ込むのよ。攻撃したら国籍など関係無しに罰を受けるわ」
「罰って?」
「今から説明する。二つ目は世界規模のギルド連合よ。これは各国の国連ギルドの最高責任者が集まって出来た連合よ」
「何で世界規模の同盟が出来ているのに戦争が起こるんだ?」
「世界規模のギルド連合は国家情勢に立ち入れないの。だから連合があっても戦争は終わらない。ちなみに世界ギルド連合の場所は極秘事項よ。漏れたら軍隊に攻め込まれるかもしれないからって言われているわ」
「場所知ってんの?」
「知らないわ」
キリの短い質問にカノンも短かく答える。
「世界ギルド連合は本当に大事が起こらないと動かないわ。そして三つ目が設立ギルド。色んな所から依頼が来て、それを請けて、成功すれば報酬が貰える。依頼にはランクがあって、Dランクが最高ランクで後はA〜Fの順に難易度が高いの。Dはdeathの略。勿論高難易度の依頼は報酬も多額よ。」
デスランクとはまた物騒な名前だ。と勝手に考える。
「自分のギルドカードにもランクがあって、請けれる依頼は自分のランク以下かそれと同等の依頼じゃないと請けられない。本気で請けたいなら誰かランクが上の人のパーティーに入れてもらって高ランクの依頼をクリアするしかないわね」
ギルドカードのランクを上げるには、GP ギルドポイント を貯めないといけない。貰えるGPは依頼によって変わり、Eランクになるには10P、Cランクになるには1000P、Bランク 10000P、Aランクになるには50000P
Dランクになるには500000Pが必要だと、しかもポイントが貯まっただけではランクは上がらず、ランクアップクエストと言う特別依頼をクリアしないと次のランクに上がれない——とカノンは言う。
「良く出来てるなぁ。例え誰かに手伝って貰ってポイントを貯めてもランクアップクエストをクリアする実力がないとランクアップ出来ない訳か」
ランクアップクエストは一人で請ける事が絶対条件なので、実力がない者はそこでふるい落としに掛けられるという本当に良くできた仕組みだ。
「早くキリが私のランクにこれるように修行しなきゃ」
ここで聞いてみたいことが生まれた。
「カノンってランク幾つ?」
「D」
「えええええっ!マジで!?」
キリは驚きの余り声が裏返っている。
「意外と実力者なんだよ、私」
「じゃあ滅茶強いって事デスカ?」
「うん」
カノンも自分で自分の事を強いと言うのだから相当な自信があるのだろう。実力者、実力主義者、強い、鬼。
「早くキリが私のランクにこれるように訓練しましょうか…………大丈夫よ。今度は攻撃の訓練だから」
サッと青ざめるキリを見て付け足し、防御の訓練をした所に移動。
「さあ、キリは好きなように攻撃していいわ。十分間で私に攻撃を一回でも当てたらキリの勝ち。遠慮何てしたら此方から攻撃仕掛けるわよ」
「よし……」
小さく呟いて、両手に黒球を出現させる。そしてカノンと同じように氷弾を連続発射する。
カノンはそれを風で難なく弾き飛ばした。
「まだまだ!」
そう叫んで突風を吹き起こす。カノンの動きが鈍くなった隙に岩弾を数十個発射した。
しかしそれはカノン魔方陣から迸る水流に砕かれた。
これでは埒が開かない。キリは考えていた作戦を実行に移した。水と風の力で雨雲をゆっくり呼び寄せる。
その作業をやっている最中も、氷弾や岩弾で攻撃を仕掛ける。
数分がたった。
黄色い魔方陣がカノンの下に現れる。同時に雨雲にも現れた。
ニヤリと笑い、その魔方陣に書いてある文字を詠唱する。
「雷よ今……その力雨……の雲より放出されよ?」
…………魔法は発動されなかった。
黄色い魔方陣は消え、後には爆笑しているカノンだけが残された。
「アハハハハッ!!キリ!あんた詠唱下手すぎ!アハッ……」
「初めて何だから仕方ないだろっ!」
初めてだから、というよりは詠唱する呪文が中二病過ぎて(中二病とは中学二年生が考えそうな言葉で、ブラッディデスダーク何たらとか聖なる剣マスターエクスカリバーとか……例を挙げるときりがない。)詠唱するのが恥ずかしかったのだ。
「くそぉ……雷よ今!その力雨の雲より放出されよ!」
再び魔方陣が展開される。しかし、カノンが水のドームを作り出し、雷を受け流した。
「もう十分たったわよ」
グウの音も出ない。
「さぁ、戻りましょ…………ププッ」
「笑うなぁ!」
テントに戻り、雑談に花が咲いた。
「私としてはキリが上級魔法を使えた事が驚きなのよねー」
上級魔法は発動する際に呪文の詠唱が必要で、キリが使用した魔法も威力こそカノンに受け流される程度だが一応上級魔法だ。
「うーん……魔力はそれほど減った気がしないなぁ」
「何か特殊な力……黒球に何かあるのかしら」
魔法は発動するのに魔力が要る。上級魔法は使用魔力量が大量なため生半可な魔導師が使用すればたちまち魔力をごっそり持っていかれ、無気力状態になってしまう。
「私と比べても比になんないレベルだけどねー」
「そりゃDランクだもんな。俺なんてまだギルドカードすら作って貰ってない」
「攻撃も出来るようになったし早く街へ行きましょうか」
「まずは何処へ?」
「バックランドよ。今一番近い街だからね。そこでキリのギルドカードを作って貰いましょう」
「んー。了解。今日は疲れたからもう寝る」
そうカノンに告げ、テントへ入ろうとする。後ろからカノンが付いてきた。
「どうした?」
カノンは無言で笑い掛ける。しかし笑っている顔とは裏腹に何か冷たい物を感じる。地雷踏んだか?気に障ること言ったかなぁ、状況を検分するが何も思い浮かばない。
「ぐはぁ!」
いきなりカノンの右ストレートが肩に入った。
「このテントは一人用よ!それとも何!?私と同じテントで寝るとでも言い出すの!?」
「いや…………一緒に寝るか寝ないかは別としてさ、このテント絶対一人用じゃ無いよね」
いくらなんでも縦横5mのテントが一人用ということは無いだろう。
「いいから早く寝なさいっ!!」
そう言い、テントに入ってしまうカノン。
「おーいちょっとせめて寝袋を……」
カノンの後に付いて中に入ろうとするキリ。それが間違いだった。
入り口の垂れ幕を開けようとすると、本日二度目の右ストレートが飛んできて、キリの顔面を的確に捉えた。
地面に倒れ込むキリ。そこに寝袋が投げられ、「おやすみっ」と恥ずかしげに言われる。実はカノンは整理整頓が大の苦手で、この日もテントの中には下着等が散乱していた、と言うのは後日談である。
- Re: Link! 【現在21話】 ( No.35 )
- 日時: 2012/09/08 18:35
- 名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
「キリー。起きなさいー」
ノンビリした声で起こしに来たのはカノンだ。
「……ん……眩しい」
起きた途端に朝の日差しが降り注いで目を直撃し、目を擦りながら朝の挨拶。
「おはよーカノン」
「おはよう。早速だけど訓練ね」
その途端にキリが飛び起きた。
「攻撃と防御どっち?」
「両方」
語尾にハートマークが付きそうな口調で言われガックリ肩を落とすキリ。
「15分で防御しながら攻撃して来なさい」
毎度お馴染みになった事前説明を受けこれまたいつもの場所に移動する。
「キリ。いくわよ」
「うぃっす、師匠」
返事が終わった途端に訓練が開始され、氷弾が飛んでくる。
「またそれですか」
「なめてもらっちゃ困るわよ」
火の壁を作り出し防御。防御した後にカノンをチラと見ると不敵に笑う姿が写った。
片手を天に向けるその姿が陰る、太陽を巨大な氷が覆い隠していた。
「————発射っ!」
カノンの掛け声と共に氷がキリへ向かった。
「……ヤバイな」
実際、本当にヤバくなったら、「ヤバイな」などと言っている暇はない。キリにはちゃんと作戦があった。
一瞬で黒球を作り巨大化、それを投げるとシャボン玉の様にふわふわ浮いていた。黒球の中に氷がすっぽり入った。
パチッ。
キリが指を鳴らす。黒球が炎上した。大きすぎる氷も炎に包まれて溶け始める。
そして起こる爆発、氷が急激に熱され皹が入り、砕け散った。
炎を纏った氷片が二人に降り注ぐ。
この後突風を巻き起こし氷片を弾き飛ばす予定だったのだが、氷片が大きすぎた。弾き飛ばされなかった氷片が目の前に墜落した。
「あっつつ!」
氷とはいっても炎を纏っている。周辺温度は60を軽く超える。
カノンの方も似たり寄ったりの惨状だ。落下してきた氷片が熱でまた爆発し、二人で揃ってたたらを践む。
「カカカカッカノン!何とかしてぇ!」
「熱いっ!囲んで!氷囲んで!」
キリは上下に跳ねながら魔法陣を編んだ。地面から岩壁が競り上がってきて、氷を囲んだ。
「ふぅー」
「まったく、無茶するから……」
「あの氷の塊が無茶じゃ無いとでも!?先にリミッターを外したのはカノンだぁっ!」
「あれが本気だと思う?」
「………………」
茶化す様な仕草で言われて絶句する。
「朝ごはんは街に着いてからにしましょ」
「腹減ったぁ」
現代日本人の感覚として、1日三食旨い飯、というのは当たり前だ。
キリが小さい頃に父は母を捨て何処かへ行ってしまい、母は朝から晩まで仕事ずくめだったので、朝や晩御飯はキリが作っていた。
その努力の賜か、キリは料理がかなり上手い。
キリがご飯の事を考えている間にもカノンはテントを手早く畳み、消した。
「なにやったの?」
「空間収納魔法。指輪一つ着けるだけで使えるようになるから便利なのよねー」
カノンの『指輪』と言う言葉が気になり脳内の知識を引っ張り出す。
この世界では指輪と呼ばれるマジックアイテムを着ける事で特定の魔法や能力を使える様になる。
指輪以外でもネックレスやブレスレットが存在するが、やはり小さくて何個か嵌められる指輪が重宝するらしい。
中には指輪等についている魔力の元、魔石を手術で体内に埋め込み、擬似的に能力を得る事件も過去にあったと記憶にはあった。過去とあったが、意外と最近の事だ。1、2年前の事で、確か魔石を埋め込んだ人が町で暴れて………………続きが気になる所だが、この先の記憶がない。
ただ単にカノンがその先を覚えていなかったということだろうか。
「カノン?体内に魔石を埋め込んだ人はどうなったんだ?」
「1年前のあれね。えーーと……うーん、思い出せない…………何か頭に靄がかかっている感じ。あの後体内に魔石を埋め込む事が重罪になった事は覚えているのよねぇ」
「靄?」
地球でなら正しく記憶障害やアルツハイマーの類だろう。カノンに限ってアルツハイマーなど有り得ないだろうが。
まだ少し気になったが、カノンが荷造りを終えてしまって、出発になる。
「あの前にいってた空間移動魔法は使わないの?」
「あの魔法には5つの壁があるの。一つ 魔力量。一つ その場所の形や地形。一つ その場所の香りや雰囲気。一つ その場所の名前。一つ 適性。特に大きいのは魔力量と適性。この2つで移動魔法を使えるかどうかが大体決まってくる」
更に行った事がある場所にしか行けないこともあって使用者は少ないとカノン先生に説明され、納得のキリ。
早速出発、と歩き出そうとした所をカノンに止められる。
移動強化魔法を付けて行きましょ。提案される。
「まぁ俺にはバイクがあるからなぁ」
エンジンを掛けてあったバイクを見て呟く。
「ん?風魔法を使えば空を飛べるんじゃないか?」
飛行機はエンジンで前に進む力を上昇に使うんだったはずだ。だとすれば横向きの風と上昇気流を起こせば飛行は可能だ!
そう結論付けてバイクに跨がる。
強力な気流が起き、バイクが宙に舞い上がった。
「そんな!」
カノンの前で常識が覆った。風魔法では空は飛べない、そう唱えた学者は誰だったか。
実際、俗にいう瞬間移動が使える世界でわざわざ飛ぼうと考える人物が少なかったことと、この世界に飛行に関する知識が少ないこと等が関係して、文明が発達してこのかた何千年の間、空を飛ぶなら魔鳥という考えしか出ていなかった。
「カノンも乗る?」
キリが問いかけ、カノンも恐る恐るバイクに跨がった。
バイクが舞い上がり、二人が元いた平地は小さくなっていく。
「すごい!どうやって飛んでいるの!?」
キリとしては魔力とバイオエネルギーの燃料を開発している世界で飛行技術が無いことが驚きだ。しかも魔法で風を自由に操れる世界で。
「しっかり捕まって!」
カノンに忠告を入れ、宙返りをする。その後急上昇。
そこから急降下する。
「きゃーーーーーーーーっ!!!!!!」
カノンの悲鳴が響き渡る。キリはジェットコースターは行ける口なので涼しい顔だ。
地面すれすれで降下を辞めるなんて危険な事はしたくなかったしする自信も無いので、程々に降下をストップすると、後ろから荒い息遣いが聞こえる。今更ながら、カノンが完全にキリに抱き付く|態《てい》になっている事に気づく。後ろからの荒い息遣いはカノンだ。
「ハァ……ハァ……街に着いたら覚えてなさい」
恐い囁きを、冷や汗を掻きながら何とかスルーした。話題を変える。
「それにしても広い森だね」
「北の森っていう……名前こそ森だけど規模は樹海ね。そういえば何で北の森なのかしら。どちらかといえば西なのに」
二人が向かっている街はエリオ大陸最西端の国にある街だ。
「そろそろ下に降りなさい」
「まだ数分しか乗ってない……」
カノンがため息をつく。
「街に空飛ぶバイクで乗り込んでって無傷でいれると思う?迎撃されるわよ」
迎撃なんて物騒な言葉を聞いて速やかにバイクを下に向かわせる。
「後どれくらい?」
「2km位かな」
それなら直ぐか、そう呟きエンジンをかける。
石畳の一本道を軽快なリズムで走るバイク。
しかし、のんびりしたドライブはカノンの声により終わることとなる。
- こんにちは! ( No.36 )
- 日時: 2012/09/10 20:37
- 名前: 3年い組 (ID: ZEtdBFlK)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13524
どうも!こんにちは、3年い組と申します。
コメント・ご指摘ありがとうございます。
どんな作品を書いてらっしゃるのか見にきてみました。
凄い文才を持っておられますね。カッコいいです!!
今後もよろしくお願いします。
コメディ・ライト小説でも全く同じものをやっています。
そちらの方が若干進んでいますので、そちらもどうぞ。
- Re: Link! 【現在22話】 ( No.37 )
- 日時: 2012/09/11 20:25
- 名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
三年い組さん
有難うございます!
文才があるなんて…嬉しいです!
- Re: Link! 【現在22話】 ( No.38 )
- 日時: 2012/09/11 20:25
- 名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
「!!!!」
「どうした」
サイドミラーに写るカノンの表情が緊迫そのものだったので焦る。
「…………血の匂いが」
カノンは獣人族だ。嗅覚が鋭く、人間よりか何倍は鼻が良い。
キリは無言でアクセルを踏んだ。
一分程でキリにも血だと分かる匂いが漂ってきた。
「キリっ、前!」
前方に人影が確認出来る。恐らく3人、いや4人か。
バイクを横に倒して、けたましい音と共にバイクを止め、走り出す。移動強化魔法をかけていないカノンと比べたらキリの方が速い。
走ってくるキリを見て、笑みを浮かべる陰があった。
「キリ!避けてっ!」
左右に閃く青い魔方陣。その真っ只中に飛び込んでいた。
「避けてっ……」
キリの両手に茶色い魔方陣が出来、左右の人影ごと土壁で覆いつくす。
中で発動したらしい魔法は、キリではなく魔法を使った本人達を氷漬けにしたようだ。
キリは道が開けている所に出た。
そこでは正に、|殺し≪・・≫の最中だった。
明らかにカノンと同じ獣人族だと分かる猫ミミをつけた家族が————正確には両親が戦っていた。
相手は盗賊。しかも4人だ。対して獣人族の夫婦は後ろの子供を守りながらの戦闘。
圧倒的に不利な状況だった。
キリが魔法を放とうとしたとき、それは起こった。
盗賊の一人が女の喉元を槍で一突き、そのまま女が槍で持ち上げられ、もう一人の盗賊が女の首を切断した。ドサリと重い音をたてて落ちた顔。目の前を飛ぶ紅い液体がかかった。紛れもない血はさっきまでは生きて体を流れていた筈で。
だからこそ温かい血を被ったキリは、叫びたい衝動を抑え、必死に頭を働かせる。
(どうすれば3人を助けられる……全体魔法を使えば巻き添えを食らってしまうだろうしかといって一人を的確に狙えるはずもない)獣人族の夫は、目にも止まらぬ速さで動いていて、魔法を使ったら当たってしまいそうで恐い。
その間にも、妻を亡くした事で怒り狂っていた夫は、精悍な顔を血に濡らし、目に狂気を据えて舞っていた。
右から来る槍をかわし、目の前に振り下ろされた剣を魔法で弾き返す。と同時に子供達を土のドームで覆い防御を施す。
だが、そんな彼を神は見放したらしい。
夫の動きが一瞬鈍くなった。その隙に盗賊が剣を振るった。剣は首ではなく耳を削ぎ落としていた。
キリは盗賊の残虐な悦びに浸る顔を見て、確信する。
この盗賊はわざと外した。
この盗賊は、恐怖に歪む顔を見たくてわざと耳を狙ったのだ。
盗賊の一人が、揺らいだ夫の腹に槍を突き刺した。
「やれ」
低い声が響く。
二人の盗賊がキリに、もう一人は子供達に向かった。
と、キリの耳に、声が届いた。
「こ……子供達だけ……は」
皆まで言う前に、夫が倒れ込んだ。
——————箍が、外れた。
辺り一帯が、黒いドームに包まれ、漆黒の闇がキリを含め盗賊や子供達を覆う。
キリが指を鳴らした。漆黒が消え、盗賊達も消え、子供達も消え、樹も消え、地面はクレーターが出来、その空間には空気すら存在しなくなった。そこに居るのは、意識を失い倒れたキリだけ。
やがて、何も存在しなくなった空間に、周囲の空気が流れ込み、轟音と共に大規模な衝撃波が起きた。
ドームがあった場所の外に存在した樹もバラバラになり、切り刻まれ、倒れる。
そして静寂が訪れた。