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Re: 超高性能アンドロイド、拾いました ( No.35 )
日時: 2012/09/29 20:35
名前: カルマ (ID: 4pBYKdI8)

⑰ピッチャーの投げたのをバッターが打つだけって野球って言うの?byカルマ

「ぐはっ」
最悪の目覚めだ。翔の蹴りが見事にみぞおちにはいった。
「なにすんだ、ったく」
「ぐはぁッ...」
お返しにと、オレも軽く鳩尾をけってやるが、これが意外と大ダメージだったようで。
「オレは..もう、駄目だっ...せめて死ぬ前に、妹にっ」
「その恥ずかしい一人芝居やめて起きろ」
「あと2、3時間くらい...」
「どんだけ寝るつもりだ、お前は。もう8時だぞ」
「まだ、寝れるし〜」
小声でそんな言い合いをしていると、奥の布団がもぞもぞと動いた。
「う、ん...」
「お、琴羽起きたか?」
「あと2、3時間...」
「お前もかよ!?」
琴羽がボケるなんて珍しい。こいつら寝るの早いし低血圧だし、やっぱ似たもの同士なんだな〜と、しみじみ思った。
『おっはよー』
急に目をパチリと開けたRioが、元気よく体を起こす。こいつは起きた瞬間から絶好調なようだ。にこにこ笑って、再び眠りについた二人を起こす。
『翔兄、琴兄、起きて起きて〜。朝だよ〜』
「Rio...ちょっと、勘弁してくれ...」
「ごめん、オレ朝ほんと弱くて...」
琴羽が布団にもぐると、隣の部屋から大きな声が聞こえてきた。
「起きろっ、琴羽!!」
次に、
「早くこっちに来い!お前が起きないと誰が私の髪をとくんだ!?」
「今日くらい自分でしてよ...」
なるほど、雷華の髪ってさらさらだなー、と思ってたら琴羽がといていたのか。この二人は本当に親子みたいだ。
「むぅ...仕方ない。今日は自分でとくから、その間に起きろ。いいな」
「ん」
しばらくごろごろした後、むくりと、琴羽が起き上がった。ちょうど雷華とyuriaもおきて来て、雷華が翔に容赦なくけりを入れる。苦しそうに起き上がる翔を見て、雷華は満足そうに笑った。
「みんな起きたな。朝食にしよう。おなかがすいた」
お前客の分際で何様だよ。

朝食はyuriaのつくった味噌汁が好評で、翔が何杯もおかわりしていた。それから、皆で少しだけ勉強をして(皆でやると意外と楽しい)公園に行った。
『何するの?』
「野球。Rioやったことあるか?」
『...ない』
途端にRioの顔が曇る。しかしすぐににっこり笑って、
『僕、見てるだけで良いよ』
と言った。しかし、目は琴羽の持っているボールに釘付けで、瞳のキラキラを無理やり抑えているのがわかる。
「えー、一緒にやろうぜ!ほら」
翔が笑って、Rioの手をとる。
「Rioはバッターとピッチャー、どっちやりたい?」
『僕はやんなくていい』
『Rio』
yuriaが姉らしい、威厳のある声で呼びかけた。
『何..?』
対するRioの声は、珍しく弱気で、儚かった。
『せっかく誘われたんですから、やったらどうですか?』
『...』
やりたいやりたいやりたい...表情にそう出ているのに、Rioは懸命にそれを抑えている。俺はRioの目線にあわせて、しゃがみこんで言った。
「なぁ、Rio。もうお前が前みたいに誰かを傷つけるのが怖いんだろ?」
『...うん』
「お前さ、自分が嫌いになってないか?」
『...うん。嫌い。だって、初めて使うもの全部が凶器になるなんて、怖い。いつか、皆に嫌われちゃうから』
「そんなこと無いんだって」
『え?』
「そうだぜ。京介の言うとおり。少なくとも俺達はお前のこと嫌いになったりしない」
「あぁ。私もだ」
「オレも。Rioとは一緒にいて楽しいしね」
『でも』
『だから、野球です』
『...え』
もう理解不能だって顔してるRio。
「よし、Rioはピッチャーだ」
「キャッチャーはオレやるぜ」

翔がキャッチャー。オレがバッターで、Rioはピッチャー。yuria達は緊張した面持ちで見守っている。
「いいか。全力で投げろ」
『でも...』
「大丈夫。絶対に受け止めてみせる」
『おかしいですね、翔さんがかっこいいです』
「珍しくな」
「ちょっと、ひどいよ二人とも」
Rioはだらんとボールを手にしたまま、動こうとしない。
「Rio、俺を信じろ。俺は大丈夫だ」
「Rio、大丈夫だって。こいつ頑丈だからw」
『Rio〜、ほら、投げてみなさい』
ゆっくりと、Rioが腕を上げる。くるか、と構えた次の瞬間オレの横をものすごい突風が吹きぬけた。
「ぐっ」
横を見ると翔が必死にボールを受け止めていた。
「翔っ、頑張れ!!」
『翔兄っ!!』
「言っただろ!俺をっ...信じろって!!」
シュウゥ、と音がして、ボールが減速する。
「止めた!」
「やったな、翔!!」
「よっしゃ、もう一球!」
『でも...』
「まだ京介が打ってないぜ!」
「おっしゃ、来い!!」
はっきり言って、打てる気がしないが。それでもオレは、バットを握り締めた。Rioがまた、ボールを投げる。
「っ!!」
全く反応できない。オレはバットを振ることすらできなかった。
「何やってんだ、ったく。2ストライクだぞ」
翔がふざけたように言うが、その腕は震えている。
「お前っ、腕が...」
「いーんだよ。アイツのためだっ」
「翔!」
「おら、3球目!オレはまだ大丈夫だ、本気で来い!!」
翔の決意が伝わったのだろう。Rioがまた、ボールを構えた。打つ。今度こそ。Rioのために。翔のために。yuriaたちのために。Rioがボールを投げる。その瞬間、オレはバットを振った。
「京介!頑張れ!」
奇跡的にボールを捕らえることができた。
『京介さん!』
「京介!」
「いけっ!!!」
渾身の力を込めて。オレはボールを打った。