コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ゆめの住人。 ( No.10 )
- 日時: 2012/09/14 15:55
- 名前: 生卵。 ◆l5afVy7QjU (ID: SG2pzqrf)
- 参照: エピソード2.
( 頑張ったって意味ないって )
昔から絵をかくことが好きだった。
たぶん、画家であった父親に影響されたんだろう。
家から十五分ほど歩いたところに、父のアトリエが有った。
木造で、きっと少し古かったんだと思う。少しぼろそうな小さな小屋だったけどそこに入ると、心にピンと張った一本の糸が緩まって時間がゆったり流れるように感じた
その家の、微かなシンナーの匂いをぼんやりと感じながら雲の合間から指す一直線に伸びた光、どこまでも続いてる空を描く時間が私の宝物だった。
(それも…来週で終わり)
父親の話では、来週あたりにこのアトリエを取り壊してその周辺の土地を売るそうだ。
もうあの匂いも、優しく素敵な空もかけないのだと知った時心に亀裂が走った気がした。
「井之上さんって、絵描くの上手だよね」
学校で席についてボーっとそんなことを考えていた私の思考は、その一言で強制的に停止された。
井之上日和、沢山の絵画コンクールで優勝した実績を持つとても絵の上手い人、その才能を妬むことはないけれど彼女と同じ学校で同じクラスになった時に私を襲ったのは虚しさだった。
中学の時まで私は、今までの経験からか他の人より絵の技術が優れていた、周りの人たちも私に絵をかいてと頼んでくることも稀にあった。
でも、そんなぬるま湯のような優越に浸っていたのがいけなかったのか、
高校に入ると私の周りに居た人は皆井之上さんの所に行ってしまった、
自分がどんなに頑張っても、彼女の様な絵は描けない。
自分が頑張って登っている道を彼女はすごいスピードで走っていく。
手を伸ばしても届かない、私は頑張った。
彼女に勝ちたいわけじゃなかったけど、ここで引いてしまったらもう絵を描くのを嫌いになってしまいそうで怖かったから。
父親のように画材を集めて、それらしく絵具で服や手を汚すようにかいてみた。それでも、届かなかった。
頑張っても「凄いね」その一言で全て収まってしまった。
それから、色を無くした世界はどんどん私を押しつぶしていった。