コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ゆめの住人。 ( No.11 )
- 日時: 2012/09/15 00:39
- 名前: 生卵。 ◆l5afVy7QjU (ID: SG2pzqrf)
- 参照: エピソード3.
( 脆かった防波堤 )
「今回は残念だったな」
職員室に呼び出されたから、何だと思ったら美術の絵画コンクールの事だった。
今回のコンクールでは私と日和さんが枠としては入選したけれど、賞を受賞したのはやはり日和さんの方だった。
自分の描いた絵だったから、ショックと言えばショックだったけれどそれでも分かりきっていたことだった。
「また次が有るんだ、頑張れよ」
「は、はあ…」
おどおどした返事をすると、強く背中を叩かれていたかった。体が壊れるから止めてほしい。
でも、次の言葉は私の中の張りつめて崩壊寸前だった何かを叩き壊した
「でも井之上の絵はやっぱりお前と並べるとどうしても比べちゃうんだよなあ」
(比べる…?比べる?)
その言葉に亀裂の入った私の心は、びきびきと音を立てて一瞬にして裂けていった。
比べられたくない、力の差が歴然としすぎてて、私のあがくみっともない姿を見られているようで強い吐き気がした。
ぐにゃぐにゃと視界が歪んでいって、酷い耳鳴りがする。
(比べないで、やめてやめてやめて。みっともない姿を見ないで)
立っているのがやっとだった私は、そのあとの先生の能天気な声なんか全く頭に入らなかった。
(あ…、何時の間に来てたんだろう)
時計のかちこちと言う機械的な音を聞いてぼんやりとしていた意識はだんだん覚醒していく。
微かに香るシンナーの匂いがして、ふと周りを見たらそこは父親のアトリエだった。
(何でこんな所に来てるの?)
あのあと体調がすぐれなくてそうたいした私は、はっきりしない意識で家に向かって歩いていた。
そして気がついたらここに居たと言うわけだ、自分の描いた絵を持って。
その絵を見ると先ほどの先生の言葉が頭に浮かんで、私の中にドロドロと黒い物が湧き上がる。
醜くて、凄く汚いそれに私はただ飲み込まれていった。
絵をデッサン用の画板に立てかけて、父親が以前使っていたパレットナイフを筆などが入っている棚から取り出した。
使っていたのはだいぶ前でも、保存をしっかりしていたため質は落ちていなかった。
銀色に光るパレットナイフは力を込めれば人にも軽く害をもたらすだろう
私は絵の前に立って、パレットナイフを思いっきり振り上げる。
それをそのまま絵に向かって振り下ろそうとしたとき、急に視界が暗くなって、暗転していった。