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- Re: 右側の特等席。 ( No.49 )
- 日時: 2012/09/20 21:21
- 名前: ゆえ ◆Stella/Y/Y (ID: qd1P8yNT)
【 第十一話 】
「・・・な、わたしっ、ちっちゃくないもん・・・」
「・・・何センチだよ、お前」
「・・・・・・152センチ」
「ちっちゃ!」
「だっ、だからちっちゃくない・・・」
そんな話しをしてる間、ふと思い出した。
わたし、さっきまで泣きそうだったのに、って。
具合も、悪いと感じていたのにって。
なのに、今野くんと話しているだけで、意地悪く言われても、不思議と笑顔になれて。薄暗かった気持ちも、すっと晴れて。
軽いと思うけど、思った。
わたし、この人なら好きになれそうって。
忘れられない過去を忘れさせてくれる人なんて、そうそういないから。
予感が、したんだ。
今野くんはわたしの事を好きにならなくても、わたしはきっと・・・
—————今野くんに、夢中になるって。
「まあ、とりあえず、そういう事だから
———俺のこと、絶対好きになれよ」
「・・・え、えと・・・」
そんな上から目線で言われるのもなんだけど、仕方がない。だって予感がしたのだから。わたしはこくっと頷いて、肯定した。
「よし、素直でよろしい」
すると今野くんは、またわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
ちょっとバカにされてる感じがしたけど、少し安心した。
・・・それと同時に。
わたし、この手に昔一度、触られたことがある——・・・。
とも、思った。
「じゃあ、俺帰るわ。じゃあな」
「あ、はい。さようなら・・・」
少しさみしい気がするが、本人がそう言うなら仕方がないと、笑って送る。だけど今野くんは、窓の前で自分の手を見つめて、何かを考えているようだった。
その時、玄関が開いた気がした。
「わわっ、今野くん、早く行かないと・・・」
「・・・・・・分かってるって。じゃあな」
そう言って、今度こそ窓からひらりと降りる。ここ二階なのに、今野くんの運動神経はどれぐらいなんだろうか。
「おーい、真優?起きてるのか?ご飯はー?」
「おかえり、お父さん。起きてるけど、ご飯はいいや、ごめん」
今野くんに触られて、なんか、お腹いっぱいだから。
・・・って、何か恥ずかしいけれど。
わたしはそっと窓に寄りかかって、したを見る。今野くんの姿はなく、きっと無事帰ったんだろうと、安心してベッドにぼふっと頭を埋める。
今日一日は、忙しい日だった。
保健室で彼に会って、助けられて、家にはいられ、「恋してみる?」と言われ・・・。
ああ、今日のわたし、今野くんに染まっているな、なんて、柄でもないことを思う。
明日からはじまるであろうドキドキ、きらっきらに染まる生活に胸をはずませながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。
第一章 E N D