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第三話 時を動かす少年少女 ( No.31 )
日時: 2012/11/23 18:29
名前: にゅるあ ◆6YRzs3gfaA (ID: yIVvsUU5)


樹の指先から、銀の光。
それはシャボン玉のようで、儚く、すぐに消えてしまいそうな。そんな印象だった。
光は、吸い込まれるようにして透の身体へ入っていく。

見とれるほど、それは綺麗だった。

横にいる樹を見れば、その表情は苦しげで。空いている方の手を頭にあて、透を見ていた。

「大丈夫?」
「……大丈夫そうに見えるの?」

目は透に向けたままで、そう言う。
そこで銀の光が止まり、樹は疲れた様子でため息をつく。
「弾かれてる、みたいな感じでね。中々記憶が入らないんだ」

「弾かれてる……?」

「そう、まるで。本人がそれを拒んでいるように」

その言葉が、何か意味ありげな気がして。

「ま、さっきも言ったけど転送をこっちからするなんて、今回がはじめてなんだ。だから上手く入らなくてそんな感じがするのかもしれないし」

「……君ってさ、何人の記憶を取り込んできたの?」
こっちからするのは、はじめて。なら、取り込むのは。
唯香はふと疑問に思い、樹に尋ねる。

「マニアックな質問、だね」
困ったように苦笑して。

「そうだね、結構たくさんの人の記憶を、取り込んできたよ」

覚えてはいないほど、たくさんなのだろう。
そういう樹はなんだか悲しげで、この人でもこんな顔をするのか。と、唯香は思った。
自分と樹は、それほど変わらないのかもしれない。
記憶を持ち続けた唯香と、記憶を取り込んできた樹と。

自分が透に忘れられて、ずっと苦しかったように。
樹も、その能力で苦しんできたのかと。

「君と私って、結構似てる?」
「なにそれ」

また苦笑する、目の前の樹に。
不器用な人なのだと思った。