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第四話 消えかけの記憶 ( No.33 )
日時: 2012/11/24 12:28
名前: にゅるあ ◆6YRzs3gfaA (ID: uepMa0k9)


第四話 消えかけの記憶

はあ、と一つ呼吸して、紫苑は樹の家のインターホンを鳴らす。
少しして扉が開き、紫苑はいつもの調子で挨拶する。

「樹様、おはようございます。紫苑です」
「はいはい、おはよ」

出てきた樹の笑顔はいつも通りで、それだけ見ればどこにでもいるただの子供にさえ見える。

「昨夜は、何かあったのでしょうか」

そう言うと、少しだけ驚いたようで、樹の表情がきょとんとしたものに変わる。

「わかりますよ。貴方の態度や雰囲気から」

「……へえ、すごいね」
「それで、何があったのですか」
樹のような記憶少年ではないため、そこまではわからない。

「透君。……転生少女と恋仲にある子が、昨日病院に運ばれてね。まあ、それだけなんだけど」
そこまで言えば、樹の銀色の目が紫苑から逸らされて。

「記憶を取り込んだのではないのですか」
「えー……そこまでわかっちゃうのかな」
「長い付き合い、ですし」

視線を逸らすのは、樹が嘘をつくときの癖だった。
何故、言うことを避けようとしたのかと。紫苑は少しだけ苛立ちを覚える。

「ん、取り込んだっていうか、こっちからの転送をその子にしたんだよ」

「……転送をですか。成功しましたか?」
「してないんじゃないかなあ、結構頑張って力使ったんだけどね」
いつも通りに笑われて。

「……、ぜですか」
「?」

「何故、私に言ってくれないのです? 唯香様には伝えてあるのでしょう?」

「え、紫苑?」

「私に伝えたら都合の悪いことでも……っ、あるのですか?」
言い終わったところで、はっ、として。
どうしよう、と紫苑は、自分がどんな顔をしているかもわからないほどに焦っていて。

「えーっと、紫苑、それってあの」
「……?」

「焼き餅?」
「……っ!?」

「ち、が……! 違います、自意識過剰です!」

「お、感情的になる紫苑、久しぶりに見た」
羞恥に顔が火照って、自分とは思えないくらい焦っていて。

「そのような醜い感情ではありません。ただ、隠そうとする貴方に苛立ちを感じただけです」
「それ焼き餅って言うんじゃないの?」

面白いもの見た、というような顔で、楽しげに話す記憶少年。

(……適わない)
思わずそう感じてしまうことが、悔しかった。