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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第四話 消えかけの記憶 ( No.35 )
- 日時: 2012/11/24 19:06
- 名前: にゅるあ ◆6YRzs3gfaA (ID: hDVRZYXV)
「では、本題に入ります」
「今まで本題じゃなかったんだね。あと君、切り替え早くない?」
樹のツッコミも無視する形で、紫苑は話を続ける。
「確か転送が不可能ときは、転送する記憶が既に自分の中にある場合、でしたよね?」
「うん、そうだよ」
「では、透様には既に記憶があるということではないでしょうか」
そう言えば、樹は少し考えるように手を頭に置く。
「いや、転送をするのは今回がはじめてだから。それで上手く入らないだけかもしれない」
唯香にも言った言葉を、紫苑にもう一度繰り返す。
だが、樹は透に転送をしたとき、強い違和感を感じていた。
それは、取り込む際、自分に既に記憶があって取り込めないのと、同じ感覚だった。
「透様には既に記憶があり、それを隠している。という可能制もあるのですね」
「……いや、逆かもしれないよ」
「はい?」
この後、樹が発した言葉は、紫苑が理解するには時間のかかるものだった。
「記憶がないのは、二人ともかもしれない」
————
「ん、唯香……?」
ゆっくり、小さく聞こえたそれ。
「か、神崎君っ! 目が覚めたの?」
「……あれ、俺どうしたんだっけ?」
記憶は戻っていないのだ、という悲しみと。大丈夫そうだ、という安心。
両方を、唯香は感じた。
「もー、心配したよ? 神崎君、急に倒れ」
「お前、誰だよ」
そう言った透の目は、どこまでも冷たくて。
「え、?」
「唯香は、俺のことを神崎君なんて呼ばない」
「…………っ」
これは、『神崎君』ではない。自分がずっと恋してきた、『透』なのだと。
そして、この透が言う『唯香』が自分ではないこと。
理解した瞬間、ひどい頭痛に唯香は襲われる。
途切れるような意識で見た透は、驚きに目を見開いていて。
その光景は、あの時の君と重なった。
忘れられていた、消えかかった記憶の。あの時と。
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