コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第四話 消えかけの記憶 ( No.36 )
- 日時: 2012/11/25 10:42
- 名前: にゅるあ ◆6YRzs3gfaA (ID: FwQAM/tA)
真っ白な病室で聞こえるのは、少し荒くなった呼吸音。
私に背を向けた君から、それが聞こえて。
ねえ、今泣いているのでしょう?
「透が泣かなくてもいいのに」
「ごめん」
「泣き虫ー」
「ごめん」
「……なんで謝るの」
「ごめん」
「…………」
「……守れなくて、本当にごめん」
私は生まれつき病弱で、15歳まで生きれば良い方だと言われていた。
そんな私の、いつも隣にいてくれた幼馴染。それが透だった。
私がいじめられれば、助けてくれた。
迷子になれば、手を引いてくれた。
涙がでたら、一緒に泣いてくれた。
「私はいつだって、君に守られてたよ」
わかってたはずだった。いつかこんな日が来るって。
16歳のある日、私は入院した。
もう治らないと。死んでしまうと、そう言われた。
一番悲しんだのは、私でもなく、両親でもなく、君だった。
「守れて、ねえよ。結局俺は何も守れてない」
そう言う君が、どんな顔をしていたのかは知らない。
君の背中を見るのをやめて、自分も反対側を向く。涙が見えないように。
「君が好きだよ」
「俺も、お前が好きだ」
こんなにも両思いなのに、報われない。
君が近づいてくるのがわかった。
私の手を握って、私を見つめる。泣きはらした目で、それでいて強い目で。
「このまま、時間が止まったらいいのに」
「俺もそれがいい、ずっと、このままがいい」
「時間が戻って。あの頃みたいに、遊びたいな」
「お前運動神経悪いだろ」
「わ、ひどーい」
こんなに笑い合えて、こんなに幸せ。
「透、約束しようよ」
指を差し出して、きょとんとした君に向けて。
「次会ったら、私に『はじめまして』って言っちゃ駄目」
「……、うん、わかった」
歌を歌う。ほらあの頃みたいに。
「嘘ついたら針千本飲ーます……」
絡めた指も震えだして、目から流れ落ちたものは君の指へ。
君の腕は、そのまま私を抱きしめてくれた。
だからもう大丈夫。
これはお別れじゃないから、怖くないよ。