コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な幽霊少女【始まるよー!! …多分(汗】 ( No.2 )
- 日時: 2013/01/26 09:21
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
数日後。なんとなくの気分で、人気の無い図書館へ行くと、更に人気の無い暗い場所で、本を読んでいる彼の姿がありました。
ちょっと前に知り合った彼は、幽霊になったわたしの存在を初めて知ってくれた人です。だから当然、気になったのですが、あの時のこともあって、どうしようかなー、とうじうじ悩んでいました。
その時、彼の視線が本から離れ、わたしと目が合いました。
気付いた彼は、わたしに手招きしました。隣に座れ、といってるようです。嬉しくなったわたしは、いわれたとおりに座りました。
彼の隣に行くと、そこは暖房が入ってなくて寒いのに(わたしは幽体だから寒さも感じないんだけど)、ほんわりと暖かさを感じました。
「何読んでいるの?」
「注文の多い料理店」
わたしが聞くと、淡々とした言葉が返ってきました。
「宮沢賢治の話が好きなんですか?」
「…ああ」
素直な回答に、わたしは思わず顔がほころびます。
宮沢賢治のお話は、わたしも大好きです。「注文の多い料理店」は…アレですけど、「雪渡り」や、「風の又三郎」はとても好きでした。中でも、一番大好きだったのは、「シグナルとシグナレス」です。
そういうと、「そっか」と素っ気無い声が返ってきただけでした。
うう、あれは好きじゃないのか…。まあ、あの話は淡い恋物語で、男の子が興味なさそうな話ですので、しょうがないことですが。
それから少し話していました。といっても、彼は本から目を離しませんでしたが。
「…ねえ、君の名前は?」
思い出したわたしは、名を聞きました。わたしたちは結構話しているのに、互いの名前を知らなかったのです。
彼はやっぱり本を読みながら、「三也沢健治」と答えました。
…漢字こそは違うものの、読みは宮沢賢治とそっくりって、どゆこと? やっぱり、ご両親もファンなのでしょうか…。
なんて考えてると、彼がやっと本から顔を上げました。
「…名前」
「え?」
「アンタの、名前は」
そこまでいわれてから、わたしはやっと気付きました。相手に名前を聞いといて、自分だけ名乗らないなんて、フェアじゃありません。
「宮川諷子。フウって呼んでくれると、なじみやすいですね」
名前を聞かれただけなのに、なんだかとっても嬉しい。
彼の口が、動きました。そして、低く擦れた声を出しました。
「——フウ」、と。
……。
ボン!! と、頭の中で何かが爆発した。
ほっぺが真っ赤になって、全身が熱い。
心臓はバクバクいって苦しいのに、それを心地いいと感じるバカなわたしがいました。
「…どうかしたか?」
「なななななんでもないです! うん、わたしはケンちゃんって呼ばせてもらうね!」
慌てて喋ると、「その名で呼ぶな!」と怒った彼が、わたしの頭に本のカドをぶつけました。
うう、痛い…。意外と本の角って、ぶつけると痛いです。
ってか、いったいどうしちゃったの、わたし…。
この時に気付いたのですが、わたしは、彼と、彼の触ったものだけ、触れられるようでした。
そして、当たり前のように、彼はわたしを幽霊だとは、知りませんでした。
わたしも、教えませんでした。
◆
それから毎日、わたしと彼はそこで一緒に本を読んだり話したりしていました。
「ケンちゃんは」
「ケンちゃんいうな」
彼はこのあだ名が嫌いのようで、わたしが呼ぶたびに怒ってました。でも、止めるつもりはない。私が気に入ってしまたのですから。エヘ。
拗ねた彼はふくれっ面で、プイ、と横に向きました。
それが、なんだかおかしくて、わたしは思わず笑ってしまいました。
「笑うな!」
「ご、ごめんごめん! なんか、可愛いなー、って…」
「かっ…!?」
立ち上がって、本の角でわたしを叩こうとした彼は、しかし、わたしの言葉で顔を真赤にしました。
それがさらに可愛くて、わたしは更に笑ってしまう。
更に照れて怒った彼が、言葉にならないような唸り声を出して、机に突っ伏しました。
久しぶりに心から笑った。
笑うっていうのは、なんてすばらしいことなんでしょう。