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Re: 臆病な幽霊少女【3話更新。コメ欲しい…】 ( No.8 )
日時: 2013/01/26 09:33
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)

 彼の隣に居ると、緊張してしまうわたしが居た。
 それを心地よいと感じてしまうわたしも居た。
 彼が居てくれるから、わたしはここに存在しているのだと。


 彼の目には、わたしが写っているのだと。


 あまりにも嬉しくて、嬉しくて、すっかりわたしは忘れてしまっていた。


「あら、三也沢君」


 冬のある日、司書を務めている女の人が、わたしたちの所へやってきました。


「もう、下校時間よ。こんな暗いところに一人でいないで、早く帰りなさい」
「…え?」



 呆然とした彼は、呟きます。
 それには気付かず、女の人は、図書委員である彼に図書室の鍵を渡して、出て行きました。


 ——ああ。
 ————ああ。


 呆気なく、終わってしまった。
 何時しか、わたしは。
 自身が幽霊だということを、すっかり忘れていたのです。
 思わずわたしは、その場から消えてしまいました。




「…フウ?」


 彼の声が聞こえます。


「フウ? 何処にいったんだ」


 彼の戸惑いが目に見えます。


「…オイ、ふざけるのも大概にしろよ」


 彼の怒りと、悲しみが声に滲んでいます。


「何処にいったんだよ、フウ!! 出て来いよ、フウ!!」


 彼がわたしを探しています。
 でも、『彼の前に出る』という勇気がありません。

 わたしは、臆病な幽霊です。
 ズルイ、幽霊です。
 騙していたのはわたしなのに、嫌われることを恐れている。
 ああ、なんてズルイんでしょう。

 楽しかったあの時間は、唐突になくなりました。
 そして、無くなった瞬間、やっとやっと自覚したのです。



 わたしは、彼が好きでした。
 彼の優しさが好きでした。
 彼の不器用な接し方が、愛おしかった。
 そんな彼を、そして好きだったわたし自身を、裏切ったのはわたしです。


 聞こえる。
 判る。
 知っている。

 その度に、「ごめんね」っていいたくなるなあ。
 でも、いいたくないなあ。

 だって、それを伝えるには、君と目を合わせていわないといけないから。




                  臆病な幽霊少女は、逃走する

(彼の隣に居ると、わたしは既に忘れたと思っていた、生きていた頃を、思い出すんだ)
(人を疑いながらも、好きだったわたしを)

(それを思い出すたびに、寂しさが湧き出ていくんだ)