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Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.105 )
日時: 2012/11/21 23:59
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)

第五章 揺らぐ文学青年


 絵の作業は、今日のところはひとまず終わり、俺と杉原は直接病院に向っていた(後の奴は病院や学校に家が近いので、荷物を置いてから来るらしい)。

 カラカラ、と回る車輪の音があたりに響く。冬は既に去ったのか、まだ日は高く、寒くはなかった。

 なのに、俺の隣では、顔を真っ青にして自転車を押している杉原が居る。



「……うん、誰だって一つは苦手なことあるけどさあ……なんなの、あの絵」

「うるせ……元々、絵は上手くないっての」

「いや、上手い下手の次元の話じゃないよ!! なんなの、桜の絵から『地獄に落とされて鍋にグツグツと煮えている罪人とその姿を見ている鬼』の絵に変わってたじゃない! しかもやけにリアルに描いてたから、トラウマ覚えたよ!!」

「お前の説明の方がリアルで恐ろしいわ!」



 やけになってツッコむ。

 そう、俺は昔から絵が下手だった。というのも、もっともっと描き込もうとテンションが上がり、結果、恐ろしい絵に変わってしまうのである。自覚はしてるさ、一応。



 隣でハア、と杉原は盛大にため息をついた。







 ……あんな絵を描き始めたのは、確か小学校上がる前か。

 バカ母に暴力を振られて、ふてくされた俺は、腹いせにバカ母の顔を、思いっきり変に描こうとしたんだ。

 笑ってしまうほど、ガキらしい発想だったと思う。

 そうだ、ガキらしくて良かった。
普通が良かった。

 冗談のつもりで描いていたバカ母の絵は、だんだんと恐ろしい絵に変わってき、





 ——般若の姿になっていた。


 何度、描いても同じだった。

 どんなものでも、恐ろしい絵になっていた。そしてそれを、悦として感じている自分も居たかもしれない。

 思えばあの時から、俺の人格は歪んでいたのだろう。

 そして、それは、今でも変わっていない。



「結局、あたしたちが担当しているパーツは、描き直さなきゃならないし……って、聞いてる?」

「あ、ああ」

「滲んじゃって色で重ねて誤魔化すのは難しそうだし……油絵だったら削り取れるんだけどなあ」

「……そっか」


 俺のせいで、最初っから描き直さなければならなくなったのか。

 何だか、申し訳ない気分になった。

 折角、俺のワガママと、フウの為にしてくれているのに。

 頑張らなくちゃ、と思った途端コレかよ。 みんなの足引っ張るなんて……。

 落ち込んでいる暇は無いのに、やっぱり落ち込んでしまう。ダメ過ぎるぞ、俺。




「だからさー、明日、絵の練習に、あたしが付き合うよ」


「……はっ?」




 意外な言葉に、俺は抜けた声をだした。



「何、その驚きよう。
 まあ、絵にコツはないけれど、練習ぐらいは付き合えるよ?」

「いや……あのさ、俺は……」

「うん?」


 キョトン、とした目で俺を見てくる。



「……俺は、居ない方がいいんじゃ」



 多分、あの画力じゃあ、俺は役に立たないだろう。

 そう続けようとする前に、杉原が遮った。