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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.106 )
- 日時: 2012/11/22 00:01
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
「なにいってるの? 居たほうがいいに決まってるじゃない」
あっけらかん、と言い放つ杉原に、俺は目を丸くした。
「だって、三也沢君が諷子さんの為に行動したから、皆が居るんだよ? 皆が三也沢君についていきたいと思ったから居るんだよ。三也沢君が居なくちゃ、話にならない」
そういって、ニパ、と杉原は笑う。
「多分、三也沢君は気付かなかっただろうケドさ。でも、ちゃんと三也沢君のことを見ていてくれる人が居るんだよ。……あたしも、今回はそれを考えさせられた。
ほら、今井が、あたしの油絵を破ったって話したでしょ」
「今井……あ、ああ」
あのチャラ女の名字か。
杉原は懐かしむように、目を細めて語ってくれた。
「あたしね、小さい頃、画家になりたかったの。お父さんみたいな画家に。
ちっちゃい頃は、お母さんにも褒められていたから、もっと上手くなりたい、もっと描きたいって思って、頑張ってた。……でも、二人が離婚して、お父さんが落ち込んじゃって。そんなお父さんの前で、描くのは躊躇って。お財布もすっからかんだったしね。
……でも、夢は捨て切れなくて、丁度美術部だったからさ、完全下校時刻ギリギリまで部室に閉じこもって描いていた。クラブメイトたちも、あたしの為に筆とか、絵の具とか貸してくれた。うん、あの時は友達は沢山居たんだ。
……だけど、うちの財布が、キツクなっちゃって」
入りたい美術学校に入れなかったんだ、と杉原はいった。
「推薦も沢山来たの。特待生で入れる自信もあった。
……でも、そんなことをしたら、お父さんは辛そうな顔をするんじゃないかって。
特待生ってことは、本気で画家になるつもりじゃないとダメだ。画家で食っていくには、とても大変な道を選ぶことになる。その辛さを知っているお父さんは……反対はしないだろうけど、……古傷を抉るようなことになるんじゃないかなあ、って思った。だから、美術とは無縁な、安くてあたしの学力でも入れるような、この高校を選んだの」
「……そうだったのか」
夢。
今の俺の夢は、フウを起こすことだ。
昔の俺じゃ考えられなかった手間も暇も、希望を抱く力となる。手を握って話すことも、俺にとっては意味のあるものだと思える。
……けれど、やはり怖いのだ。
覚まさなかったらどうしよう。このまま死んでしまうんじゃないだろうか。
前向きに考えれば考えるほど、その不安や恐怖は色濃くなる。
良く判った。
杉原の気持ちが、良く判った。
夢も、希望もあるのだ。
頑張ろうと思えば、何処までも頑張れる。
けれど、やはり躓いてしまう。
怖くなってしまう。
夢や希望に、裏切られてしまうんじゃないかと。
情けないほど、打ちのめされてしまう。
「……て、思ってたんだけどさ。違うんだよねー」