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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.107 )
- 日時: 2012/11/22 00:09
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
「……は?」
まさか彼女がそんな言葉をいうとは思わなくて、俺はビックリして立ち止まる。
「あのね、三也沢君が諷子さんが桜好きで、見せてやりたいっていった時、思い出したの。あたしが、お母さんの誕生日の為に描いた、見事な桜の油絵を。
毎年ね、お母さんやお父さんの誕生日に絵をあげていて、その時、二人とも凄く喜んでくれたことを思い出して、素人が取った写真よりも、あたしの得意な桜の絵の方が喜んでくれるんじゃないかって、思ったの。
絵を描くって、昏睡状態の人の目を覚ますのには役に立たないけれど。でも、あたしが出来ることで、諷子さんを喜ばせることが出来るのなら。そんな風に思った。
その絵は、まだ未完成で、折角だから、それを描き上げて渡そうと思って、ダメナコせんせーに頼んで、あの奥の部屋で放課後、描いていた。
そして完成間近ってところで、今井が来て。最近あたしが放課後居ないから、付き合い悪い、生意気っていわれて、ちょっと突かれた。その拍子で……」
「絵、破けちゃったのか!?」
驚いた俺に、苦笑いで杉原は頷いた。
「……すっごく、悔しかった。喜んでくれるかな、と思って描いた作品だったから、裏切られた感じがした。
ショックで、家に閉じこもっていたの」
「あー……」
だから、中々見かけなかったのか。
何だろう、この思い当たる節は。シンクロシティ?
「もう、何もかもイヤでイヤで。部屋に閉じこもった。布団に閉じこもった。
とにかく、嫌な事から離れたくて……でも、嫌な思いは、益々増えていった。とっても辛かったし、悲しかった」
心当たりが多すぎるがな。
「でも……お父さんや、今井経由で話を聞いた皆が、あたしの家に来て、扉を叩いてくれた。引きこもるあたしに一生懸命はなしかけてくれた。三日も。
その時、あたし気付いたの。……何してるの、あたし? って」
その言葉に、俺は息を呑んだ。
彼女の笑みに、ハッ、と気付かされた。
「何で、皆がここまでしてくれるのに、あたしは引きこもるしか出来ないの? 辛い、悲しいのままなの? ……どうして、あたしは、皆がここまでしてくれるのに、一人で何にも出来ないくせに、何一人で何とかしようとしてるの? ううん。違う」
自分で自分の言葉を否定して、ゆるゆると彼女は首を振った。
そして、穏やかな声で、こういったのだ。
「——どうして逃げているだけなの? ……て」
けれどその言葉は、どんな暴力の言葉よりも、ずっとずっと鋭かった。