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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.108 )
- 日時: 2012/11/22 11:06
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
「あッ……」
口を開ける。上手く言葉に出来なかった。
杉原は、まだ続けてくれる。
ひたすら笑いながら、俺に語りかけてくれる。
「判ったんだよ、判ったんだよ、あたし。
あたしはね、傲慢だったんだ。自分だって弱いくせに、お父さんを弱いと見下していた。守らなくちゃと思って、信用してなかった。そんな自分の傲慢さが、自分の首を絞めていただけなんだって。
人を信じて頼ることも出来ないあたしが、それどころか自分すらも信じられなかったこの傲慢者が、一体どれほどのことを成し遂げれるというのか。
——それだけのことだったんだ。夢が、あたしを裏切ったんじゃない。夢が裏切ることなんて、絶対になかったんだよ」
ブワアア、と、暖かい春の風が吹く。
茜色に染まった彼女の髪が、風と共に揺らいだ。
「今思えば、あの時、もっともっとお父さんと話していれば良かった。クラブメイトたちに、相談すればよかった。
方法は考えてみれば、幾らでもあったんだよ。協力してくれる人は、沢山居た。見つけられなかったのは、あたしがそれを信じられなかっただけ。
絵が破られて、悔しさとか悲しさとか思い出したとき、やっとこさで気付いたのよ。……バカだよね、あたし」
杉原は、エヘヘ、と笑いを零す。
……これは、慰めではない。
けれど、彼女は、同情してくれるのだ。
俺の弱さを、肯定してくれるのだ。
その上で、彼女は俺を否定して、助けようとしてくれているのだ。
……そうだ。あの桜の絵を見て思ったじゃないか。
『もっと、人を頼ればよかった』と。
……昔は、心配してくれる人は居なかった。
迷惑はかかってることは、知っていたけれど、心配してくれる人のことは、知らなかった。
杉原は、心配してくれているのだ。
そして俺は、そんな人の気持ちを、知りもせずに、自暴自棄になって……。
一瞬、ゴメン、といいそうになった。
けれどやめた。
それは、違うような気がしたから。
「……ありがとう、杉原」
代わりに俺は、お礼の言葉を呟いた。
そういうと、彼女は嬉しそうに、笑った。
それが何だか、無性に嬉しかった。
◆
そんな話をしているうちに、ついてしまった病院。
病院は、なんだが騒がしい。
「……どうしたんだろう?」
杉原が、不安そうな顔でいう。
俺も、何だか嫌な予感がした。けれど、それを考えるのはやめた。
さあ、と判らないフリをして、その予感を振り払う。
「とにかく、フウの病室に行くか」
「そだね」
その時だった。
「あ、三也沢君!」
東京に居るはずの、杏平さんが飛び込んできたのだ。
「杏平さん!?」
「や、やあ久しぶり。だけど、話すのは後だ!」
「ど、どうしたんですか、そんな息切れて……」
杉原が、どんな表情をすればいいのか判らない様子で聞く。
杏平さんは、俺と杉原を交互に見て、至極落ち着いた声でいった。
「今、諷子さんが——」
◆
杏平さんの後の続く言葉は、諷子の危篤状態であった。
その後、杉原は杏平さんに連れて行かれ、俺は院長先生に連れて行かれ、先生の部屋にお邪魔した。
院長先生は、一通りフウの現状を俺に説明した後、お茶でも飲んでいて、といって、出て行った。きっと、フウの元へ行ったのだろう。
それが、何の結果をもたらすかは知らないけれど。
……頭が、真っ白になっている。
だが、考えてみれば、フウが生きていると知ってから、一ヶ月近く経つのだ。今、危篤状態だとしても、おかしくはなかった。
院長先生がいうには、まず人は脳死が先で、その間は生きてるようにあたたかいという。……だが、脳死になってしまえば、もう助かる見込みはない。
結局助けるといって、……手遅れだったのだ、俺は。
何で、あの時グズグズと悩んでしまったのだろう。
あの三日間は、今思えば勿体無く思えた。
あんな奴のいうこと、一々真に受けなくて良かった。
悩む暇なんてなかった。迷う暇なんてなかった。
どうして、自分は大切なモノを、幾つも見落とすんだ。
落としたと気付くのが、何で何時も遅いんだ!
今回ばかりは、誰も助けることは出来ない。
どんなに手を合わせても、叶わない。
どんなに祈っても願っても、誰も救ってはくれない——。
『——なら、ここで諦めますか?』
——え?
女の人の声が聞こえた。
けれど、何処か聞いたことがある声だった。
その時、ブワアア、と、風が吹いた。
その突風に、思わず目を閉じる。風と共に来たのか、甘い香のにおいが鼻腔をかすめた。
突然の出来事に驚きつつも、思考ははっきりとしており、俺は今、ありえない現状を整理できた。
——……今の風は、窓から入ってきたんじゃない。
窓は、閉めてあった。
あの、突風は、部屋の中心から勝手に湧いていた……!?
やがて、突風も収まってきて、恐る恐る目を開ける。
突風が吹いた、その場所には。
俺と同じくらいの、少女が居た。
少女は、たっぷりとした黒くて長い髪を綺麗に結い上げ、白い髪飾りと、白と銀の綺麗な花のかんざしをつけていた。
海のような、深い樹海のような、青とも緑ともつかない、綺麗な瞳を持っていた。
やっぱり、何処か見たことあるような綺麗な顔立ちで、けれど、古代の中国を連想させる着物を身につけているせいで、違和感を感じ、何処か浮世離れしていた。
そして、その違和感と浮世離れした原因は、それだけではなかった。
何せ——その少女は、透けて、漂うように浮んでいたのだから。
揺らぐ文学青年の、とある奇跡
(これが、文学青年の周りにいる、様々な人々の結果)
(さてさて、文学青年は、一体どの結果をもたらすのであろう?)