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- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照1000突破記念感謝祭更新!】 ( No.118 )
- 日時: 2012/11/27 23:09
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
第六章 踏み出す文学青年
「どういうことですか!!」
諷子の病室で、荒げた雪の声が響いた。
彼女の声は、アルトなのだが、今は興奮しているせいか、かなり高い声に変わっている。
雪は、杏平に諷子が居た病室に連れて行かれた。そしてそこで、ある事実を聞かされた。
今、諷子は脳死寸前だということ。
諷子が危篤状態になったのは、医師側の人間が意図的に点滴などの機械を停止させたからということ。
そもそも、諷子の寿命は一ヶ月なんていう期限はなかったということ。その気になれば、十年でも二十年でも生きれたということ。
その真実を知ったとき——雪の怒りは、爆発した。
「あなたたち、一体何を考えているんですか!? 嘘までついて……諷子さんを、殺すつもりなんですか!? あなたたち、本当に医者なんですか!?」
「……すまない」
「あたしに謝っても困ります! どうしてそんな真似をしたのか、ちゃんと説明して下さい!」
そういっても、杏平は何も答えなかった。
その姿に、雪はネットでの情報を思い出す。
『もう助からないと医師側で判断されたこん睡状態の人間は、予算などの都合で点滴などの命を繋ぎ止める機械を停止される』——。
ネットの情報だったから、まさかかと思ったが。
実際に、こうなってしまえば疑いようは無かった。
雪は、生まれて初めてこんなにも怒った。
元々怒らない方であったし、大抵のことは怒ったって何も変えられない、と諦めていたからもあった。
けれど、今回ばかりは、耐え切れなかった。
今回も変わらず、怒ったって、何も変わらないことぐらい判っている。
けれど、我慢なんて出来ない。
雪は、健治がどれ程、諷子の眠りがさめるのを願っていたかを知っている。その度に自分の無力さを感じていたことも、他人に迷惑をかけていたことも。
そして、その度に、彼が周りに感謝していたことも、知っていた。
だから、許せなかった。
健治は彼らを信頼していた。
だから、ずっとずっと頑張っていた。
たった一人でも、例え一ヶ月という短い期限でも、諦めずに信じて、声をかけ続けた。
「(それなのに、それなのにッ……!)」
ギシ、と奥歯にある肉を噛み千切る。
鋭い痛みと、鉄の味が口に広がったが、そんなのは構わない。
理性が、もう本能に逆らわない。
怒りと言葉が、噴水のように噴出してきた。
「全部、アンタたちが決めていたことなの!? 諷子さんの命も、あの人の努力の許容も!! 全部、全部、全部! アンタらが決めていたことなの!?」
「……」
「答えなさいよ!」
沈黙を通す杏平に、怒り狂った雪は更に続ける。
「アンタがッ……アンタがのん気に東京に居る間! あの人は、自分の時間を削れるだけ削って、諷子さんの看病を続けてた! 気が狂いそうな一ヶ月間! 自分以外は誰も来ないで、無駄とか思ったり、死んだらどうしようって、そのぐらいあたしが気づけた程、苦しんでいた! でも、あの人は頑張った!! 周りの人が助けてくれると信じて、頑張って頑張って頑張った!! そんなことも気づけなかったのかこの人非人!」
「ッ……!」
杏平は、歯を食いしばる。
震えた手を、握り締める。
それだけしかしない。
彼は、必死に雪の言葉を受け止めていた。