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Re: 臆病な人たちの幸福論【『間章』更新!】 ( No.136 )
日時: 2012/12/08 18:49
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


 彼は、わたしを泣かせる名人だと思う。

 今まで何度も、わたしの頑な心をほぐして、泣かせてくれた。



 でも今回は、一番心に響いた。



「(何て、無茶苦茶な理論だろうな)」



 それこそ、あの穢れた世界でいえば、すぐに重圧で消されそうなちっぽけな言葉なのに。

 わたしを、その気にさせてくれる、なんて力強く、神々しい言葉なんだろう。



「……一つ、聞いてもいいですか」



 わたしは抱きしめられたまま、聞いた。



「何時からキミは、そんなにも強くてカッコイイヒーローさんになったの?」

「別にヒーロー気取りで来たわけじゃないぞ!?」



 ヒーローという言葉に反応して照れて、彼の体温が少し上がったのは、気のせいではないだろう。



「……別に、カッコよくなったわけじゃないし、強くもなってない。今だって、お前みたいに死にたいって、苦しいって思うことはあるし。……でも、フウに出会えたのは、あの汚くてどうしようもない理不尽な世界があったから。……だから、あの世界で生きとおしてみようって、そう思ったから」

「そっかあ……」



 何か、照れくさいなあ。

 でもキミは、わたしに生きてくれて良かったって、いってくれているんだね?



 人を傷つけてしまっても、役に立たなくても、未だに皆を憎んでしまっても。

 全部、良い所も悪いところも、わたしだっていってくれたね?



「ねえ、ケンちゃん」

「ん?」

「……わたし、今でも死にたいよ」

「知ってるさ」間髪入れずに彼は答えた。「お前、ヘタレだからな」

「THE・オブ・ヘタレキングにいわれたくなかったその台詞」

「ヘタレキング!?」



 何だかショックを受けているケンちゃんに、思わずわたしは笑う。


 わたし、泣けた。

 笑えた。

 たいした理由も無く、出来た。



 ……今思えば、何で彼に出会ったんだろう、なんて。

 どうして、彼には触れれたんだろう、って。


 どうして、彼を助けたのか。

 どうして、彼だけわたしの存在に気付けたのか。



「(……そっかあ。理由なんて、何処にもなかったんだ)」



 ただ、その出来事を幸運ととるか、災難ととるかで変わった。







「(……何、悩んでいたんだろうな、わたし)」



 ようやく、ふわふわと言葉に表せれないものが、判ったような気がした。



 わたしは、生きて良いよって、認められたかっただけなんだ。

 だから、上手くいかなくて拗ねて……子供のように、癇癪を起こしていただけなんだ。



 今でも、解消できていない苦しみもあるけれど、

 何となく、今ならそれもわかっていくだろうと思った。




                 ◆



「……たい」



 フウは、小さな声でいった。

 最初らへんが、聞き取れにくて。もう一度、といったら、ガバッと彼女は顔を上げた。



 少し、やつれた彼女の顔。

 でも、相変わらず優しいまなざしは、変わっていなかった。



「でも、わたし、生きたい……!!」




 ——そして、相変わらず泣き虫なところも。















        どうすればいいのか、判らないことだらけだけど、一緒に考えていこう


(多分キミは、沢山のことを考えて、一つの答えにたどり着いただけ)

(だけどまだ、答えは沢山あるよ)



(キミらしい幸福論を、俺も一緒に考えていこう)