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Re: 臆病な幽霊少女【臆病な幽霊少女編 完結 コメ欲しいです…。】 ( No.14 )
日時: 2013/01/26 10:36
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)

               泣き虫な文学少年

 人気のない、図書館の鍵を開ける。
 その奥には、俺専門の読書部屋がある。
 電気が最低限の為、カウンターよりは暗いし寒い場所だ。
 その戸を開けると、


「ケーンちゃんっ」


 何時もニコニコ笑っている、アイツの明るい声が、聞こえるはずだった。


                       ◆


 俺がアイツに出会ったのは、今から一年前の、冬が近い秋。
 あの時俺は、自殺をはかった。
 理由は特別にない。しいていうのなら、死んでもいいだろう、って思っただけ。
 屋上からの飛び降り自殺を選んだのは、それが一番手軽に出来たから。
 別に立ち入り禁止ではないのだけど、何時も誰も入らない屋上。
 何でも、ここには俺と同じように考えた女子生徒が飛び降りたって噂がある。その女子生徒が悪霊として屋上をさ迷い、ここに来た生徒を道連れにする…という噂だ。
 その噂の真相は、確かではない。だが、意外と皆が信じている噂なので、興味本位でここに来る奴らはいない。

 まあ、噂が本当かどうかなんて、俺には関係ないことだ。
 死ぬ、俺には関係ないことだ。


 その日は、良く空気が澄んでいて、大きな満月や星が、とても良く見えていた。
 さびついたフェンスを掴む。ザラっとした感覚と、キンッ、と冷たい金属の温度。
 それをよじ登って、俺は辺りを見渡した。
 街の光が、良く見えた。
 きっと、俺が居なくても、この光は一つも失うことはないだろう。
 そう思うと、何処か安心することが出来て。——若干、チクリとした痛みがあったけれど、俺はそれを無視する。

 そうだ。俺が死んだって、誰も悲しむことはない。
 死体の処理とか葬式とかの『迷惑』はかかってしまうだろうが、『心配』はかけないだろう。

 たったそれだけのことだ。

 お金のことなら、問題ない。だって、俺の家は金持ちだから、葬式ぐらい容易いことだろう。

 もう、この世界に未練はない。
 躊躇無く、一歩を踏み出した。


 …ハズだった。
 俺の右腕に、誰かの細い腕が掴んだのだ。
 グイ、っと引っ張られ、思いっきり体が後ろに傾く。そしてそのまま、誰かの上に倒れた。

 その、引っ張った張本人こそ、アイツだった。

 黒い長い髪を赤いリボンで軽くあしらっており、きちんと着た制服。平均よりも小さい身長だが、普通の少女だった。

 あの、冷たい瞳以外は。
 温かい眼差しを放しつつも、氷のような、凍て付く瞳に、俺は惹かれたのだ。
 俺の下敷きになったアイツは、しかし逞しく、ボケーっとしていた俺を退けて自力で立ち上がった。そして、「死にたかった」と呟いた俺に怒鳴り散らしてきた。


「死にたかった、だから死ぬんですか!? 人間、本当は死に方を選んじゃダメなんです!! 人間が選べるのは、生き方だけなんですよ!?」


 この言葉だけしか、覚えていない。
 その後も何かいわれたけれど、あまりの勢いに俺は、意識と記憶がほぼ吹き飛んでしまった。
 
 そう、これが出逢い。

 嵐のように現われて去った。アイツが何年何組なのか、何故あれほど恐れられている屋上に、しかも夜に居たのか、何故助けたのか判らないまま、俺はフラフラとした足取りで帰って、一睡もしないまま次の朝を迎えたのだ。