コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.163 )
日時: 2012/12/20 22:51
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



 いい過ぎたかな。

 俺はちょっと反省した。

 人にはそれぞれの価値観がある。だから、これが正しいなんて俺にはいう権利がなかった。

 それに橘は、本気でそうしようと思っているわけじゃなくて、恐らく会話のネタを作るために話してくれただろうから。

 ……こんな口下手な俺と会話が出来ているのは、橘の楽しく会話しようとする気遣いのお陰だ。なのに、その気遣いを酷いようにいってしまった。



「……ゴメン、マジになりすぎた」

「いや、三也沢の意見は正しいよ」



 橘がいった。

 それに続いて、「……そうだよな」「そうだな」と、上田も森永も頷いた。



「……やっぱり、人の好意とか気持ちとか、無下にしちゃいけないよな。気持ちを蔑ろにするってことは、その人を傷つけることと同じことだからな」

「どっか、頭が沸騰していたぜ。サンキューな、三也沢」




 ニカ、と橘は笑う。

 その姿は、まるで夏の太陽だった。



 橘は、お調子者で自己主張が強く、たまにデリカシーの無い発言をするが、何時も前向きで、人の話をちゃんと聞いて、人を傷つけようとする敵意は全く感じない、イイ奴だ。

 こんな奴ばっかりじゃ、疲れるだろうけど。



「……ああ。こっちこそな」



 こんなサッパリした奴が居るから、世の中はどうにかなってるんだろうな。



                  ◆


「……で、そこまで大層なことをいえるってことは、諷子嬢と何か進展があるのか?」


 殆ど飯を食べ終え、次の授業の準備をしながら、橘がいった。

 ちなみにフウは、今井と杉原に引っ張られて、別のクラスで食べている。もうすぐ帰ってくる頃だろう。



「……進展ねえ」

「何かあるのか!?」



 キラキラした視線が飛んでくる。



「ない」

「ない!?」

「おま、付き合って何もないのか!?」


 橘と森永が食いついてきた。

 橘はともかく、森永がここまで怒るとは。予想外だった。



「あ、強いていうなら図書室で一緒に勉強する時間が増えた」

「勉強!?」



 今度は上田が反応する。



「……妙齢の男女が」

「……図書室で、勉強」

「色気ねぇー!」



 うがー!! と、橘が頭を抱える。



「おま、人にはご大層な説教かましておいて……!!」

「宮川が可哀想だ」

「……いっとくが、フウが勉強教えてって頼んでくるんだぞ?」



 フウは、今の今まで学校に通っていなかった奴だ。当然、学力は低い。

 だから、暇さえあれば教えてくれとたずねてくる。俺は教えるのが下手だぞ、といっても、ケンちゃんが教えてくれたほうがイイ、といって聞かないので、教えてやることになったのだ。

 まさか、俺だって一日中勉強はイヤだ。フウの頼みだから聞いてやってるだけで、本当は夏休みの補習だって、嫌々やってんだから。
 ……俺のイメージはがり勉なのか? だったら大きな間違いだ。