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Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.164 )
日時: 2012/12/20 22:57
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


「そりゃ彼氏と長く居たい口実だろうが!!」

「いや、一緒に居たいって思うなら、ちゃんといってるからアイツ」



 ……フウが生霊だった頃の失敗があるから、俺もフウも、ちゃんと言葉で伝えるように努力している。

 口下手な俺はともかく、フウは元々からハッキリと言葉として表すので、その心配はなかった。一番危険なのは、俺だな。気をつけなければ、何も喋って無いようでいる気がするから。



「……お前ら、つまんなくないの?」


 三人にはまるで、この世の生物じゃないような目で見られた。何故。



「そうでもないぞ? ——好きな奴が頑張って努力して、知らないことに目を輝かせて、結果を出して喜んでいる姿は、嬉しいもんだし」




 それに俺は、フウを眺めているだけで楽しいし。




 ……そういうと、三人はプルプルと震えだした。

 かと思ったら、泣き出した。忙しい奴らだな……ってか森永、お前もかッ!




「おま、……ホンット、イイ奴だな!!」

「ヤバイ俺が女だったら惚れてる」

「やはりお前は、凄い奴なのだよ」

「……はあ、どうも?」



 良く判らないので、頷くだけにしておこう。



「やっぱ、話してみないとわかんねーもんだな、人間!」

「あー、それは俺も思ったな」



 橘の言葉に、俺も頷く。

 森永がこんなやつだったとは(以下略)。



「三也沢もさー、最初見たときは怖かったもんな」

「へっ?」


 橘の意外な意見に、俺は驚く。


「そうだな。何か、寄れば斬る! みたいな」

「見ていて凄く腹立った記憶があるな」



 上田も森永も頷いた。

 ……俺、そんなイメージだったのか。




 ——いや、当時の俺はそうだっただろう。

 あの頃は、目に見えるモノ全てを憎んでいたのだから。



 希望なんてないと思っていた。

 憎む気持ちはずっと続くだろうと思っていた。

 何も、変わらないと思っていた。



 たった二年前の話なのに、ドコか遠く感じた。

 それ程、今が輝かしくて、手放したくないものなんだろう。



 ……そんな日常にしてくれたのは、紛れも無いフウで。






「(……あー、もー)」





 重症だな、と思った。

 俺はあまりにも、フウに惚れ込みすぎてる。ホント。






「ん? どうした、顔を赤くして」




 上田にいわれて、俺はハッとわれに返った。


「あ、いや! 何でもない。
 ……まあ話を一番最初に戻すけど、彼女を作るんだったら、良いと思うぞ?」


 そういうと、「彼女かー」と橘は背もたれに寄りかかる。


「……まあ、案の定というか」

「そんな女子は居ないしなあ」

「俺はのんびりとしていたいから、今はいい」


 まあ、そうだろうな。
 そして森永、何時ものキャラクターをありがとう。今日お前のイメージと性格とのギャップさに、もう腹筋が爆笑していて仕方が無かったんだ。

 と、良く判らない感謝を心の中でしていると、「あ!」と、橘がいった。




「なあ、上田! お前に、すっげえ可愛い妹が居ただろう!?」

「え、そうなのか?」

「初耳だ」



 俺は思わず聞き返し、森永も知らなかったようで、話に乗り出している。



「ああ、この学校の一年生で、もーめっちゃ可愛い感じの子でさあ! な、紹介し——」



 ヒュッ。



 してくれよ、という前に、上田が投げた筆箱が、橘の頬擦れ擦れを通った。

 ガコ、と不吉な落下音がした。筆箱が微妙に床にめり込んでいるのは、気のせいだろう。うん、気のせいだ。



「……俺の妹が可愛いのは認めよう。だが、妹に手を出してみろよ? 眼球くり貫くぞコラ」

「……ご、ゴメンナサイ」

「よろしい」



 プルプルと、涙目に震えあがっている橘。そしてその前に立っているのは、背後に鬼を立たせた魔王・上田が。

 あの温厚な上田が、怒るとここまで凄いことになるとは。ってかシスコンとは。



 何にせよ。




「(怖ぇぇぇぇぇ!)」


 今日は初めて、橘との意見が一致した。ついでに森永とも。




「……それに、会わせたいのは山々なんだけど、今はムリなんだよ」

「え? どして?」




 安心して復活した橘が、思わず聞く。

 ……その時、一瞬、上田がいうのを、躊躇ったように感じた。




「……実は、俺の妹は——」

 キーンコーンカーンコーン。



 上田の言葉と、昼休み終了のチャイムが重なった。


「……あ、終わったな」

「じゃ、席に着くか」



 それぞれが、席に着く。

 別のクラスに行っていたフウも戻ってきた。



「ただいまー」

「おー、お帰り。どうだった?」

「楽しかったです」フウはニコリ、と答える。そして、昼休みのことを話してくれた。



 そしてその五分後、教師が教室にやってくる。

 また、退屈な授業が始まった。

 隣の席のフウは、相変わらずキラキラとした瞳で授業に挑んでいる。

 俺はクスリ、と笑って、暇つぶしにシャーペンを指の間でクルクル回していた。





 あの時、上田が何をいおうとしたのか、俺は気に止めなかった。

 まあ、何かあるんだろうな、ぐらいにしか思っていなかった。その時までは。

 だが、これがあの事件の発端になるなんて——。





 世界は、あまりにも突飛過ぎる。





           それは、暑い夏の日のこと


(夏は、強い想い出を残す季節)
(それは、楽しい想い出なのか、それとも——)

(とりあえず今年の俺の夏の目標は、青春を目一杯楽しむことだ)