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Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.179 )
日時: 2012/12/28 13:49
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

                     ◆


 一通り勉強が終わったのは、九時を回ってから。

 申し訳ないわたしは、ケンちゃんと一緒に雪ちゃんを家まで送ることにした。本当はケンちゃんも送りたかったけれど、「お前女だろ」といわれて却下されました。

 芽衣子さんは「まだ仕事があるから」といって留まり、三人で学校を出て、雪ちゃんを無事家に送ることが出来た。

 わたしが今日のお礼と謝罪をいうと、雪ちゃんは「全然良いって! また何かいってね。あたしが出来ることをするよ」といってくれた。






 そういわれて、嬉しさともどかしさ、そして自分の不甲斐なさを感じてしまった。





 まただ、また雪ちゃんを頼ってしまう自分が居る。

 頼るって事は悪いことじゃないと思う。でも、大丈夫だろうか。




 無理していないだろうか。
 呆れられないだろうか。

 努力をしようとしても、人の助けが居るなんて。
 こんなに人を振り回しているわたしの不甲斐なさに、とっても……とっても、情けなくなった。








 日はとっぷりと浸かり、夏の湿気と涼しい風が、昼間の暑さを溜め込んだ身体を程よく撫でる。


「……お前さ、少し頑張りすぎだろ」


 いつの間にか無口になっていた帰り道、唐突にケンちゃんが話を切り出してきた。



「そう……かな」



 自分ではそんなつもりがない。寧ろ、もっと頑張るべきだと思った。
けれど、間髪入れずにケンちゃんが「そうだよ」というので、そうかも、と何だか思ってしまう。




「……一人で、頑張ろうって思うなよ。お前が気を張って一人だけで悩む姿は、あれで最後にしたいんだから」


 あれ、というのは、恐らくわたしのこん睡状態だった頃までの話でしょう。

 ……今思えば、自分を傷つけて、どれだけの人を傷つけていたのか。

 わたしは望んでないことを、自分でしていたなんてこと、もうこりごりだ。




「……足の具合はどうだ?」

「……まだ何ともいえないみたいです。リハビリは一通り終えて、一応歩けるようにはなったけれど。非装着時には弾力包帯を巻いて切断した足に常に一定の圧迫をかけ、形状が変化するのを出来るだけ抑える事が大切なんだって。そうしないと、義足はつけれなくなるみたい。特に切断した直後は断面の形状が変わりやすいらしくて、たまに足が痛むんだけど……」



 最後らへんは嘘です。しょっちゅう痛む。

 夜になると、元々太かった足が、更に太くなったりしちゃいます。パンパンですよ、パンパン。

 思ったよりも早く義足が来たときは、嬉しかったけれど……本当は二ヶ月以上はかかるはずなのに、院長先生が特急で作らせたそうで……貴方何者なんですか? と今度聞いてみよう。

 足が痛い理由は、まだこの義足には慣れてないからだと院長先生はいっていた。そうでしょう。本当は後二ヶ月はリハビリを続けなければならないのですから。あまり無理はせず、訓練して欲しいといわれました。



「手のほうは?」

「左手は問題なし。右手はまだ完全には動かないですね。もう少し訓練すればいいって院長先生はいっていたので、不安は無いです。元々、左利きでしたし」

「おお、便利だな両利き……」



 便利ですとも。二本使えればノートなんてあっという間に書き終えれます。

 ……ムリですけどね。




「……まあ、足のリハビリ、それから慣れない学校生活、多すぎる勉強と、あまりにも根を詰めすぎてるんじゃないかと思ってな」

「そんなこと……大丈夫だよ」

「お前は大丈夫でも、俺は大丈夫じゃないんだ」




 ピシャリ、とした言葉に、思わずわたしは肩を震わせる。


「……あんまり、気を負うなよ。俺だって頑張りたいのに、お前だけ頑張っているのはフェアじゃないだろ」

「……うん」



 その通りだった。その通り過ぎて、頷くしかなかった。
 ……確かにわたしは、独りよがりになってます。
 もっと頑張らなくちゃ、って、少し自棄になってるような気がする。

 もっと、気を抜いて、周りを見ないとと思った。
 自分の傷に気付かない振りをして、周りの人を傷つけるのはもう嫌だ。





「……というわけで、今週の休日、息抜きにどっか行くか?」

「え!? 連れて行ってくれるの!?」




 思わず、彼の方に顔を向ける。

 今までの暗い気持ちが、吹き飛んだ。


 お出かけ……お出かけ!?
 これは俗に言う、デートという奴だろう。

 けれどその前に、この土地から一度も離れたことの無いわたしにとっては、未知の世界へ冒険しに行くような感じだった。

 胸が高鳴る。ドキドキする。





「いっとくけど、市外はムリだからな。市内で行きたい場所決めろよ」

「う、うん! 探してみる! でも、ケンちゃんも、行きたい場所があったらいってよ!」

「え……俺が? あんま遊べるところ知らないぞ?」

「少なくともわたし以上に知ってるでしょう? ね、約束だよ!」



 指きりげんまん、といって手を出すと、ハイハイ、とケンちゃんも出してくれた。




 一度やったことがある指きり。
 あの時は守れなかったけれど、だからこそ、今度は守れると思った。




「指きりげんまん、嘘ついたら針千本……」




 静かな、静かな夜の道。
 わたしたちの約束の声だけが、そこにはあった。



        すっごく、すっごく嬉しいです!


(わたしはそう答えると)
(何処か照れくさそうな彼の顔が、そっぽ向いた)

(ああ、幸せだなあ)