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Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.187 )
日時: 2013/01/07 16:20
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


 今日は、創立記念日で学校は休み。
 だからこそそれは、偶然の出来事だった。


 ただ、買い物をしていただけだった。

 本当はしたくなかったわ。こんなコーヒーよりも暑い日に誰が外へ逝こうとするもんですか。でも……コーヒーの豆が切れていたから、仕方がなく買い物に行ったのよ。

 武田君に「カフェイン摂り過ぎると骨が脆くなりますよ」といわれたけど、私カフェインがないと死んでしまうわ。ホントに。頭痛も酷くなるし、眠れなくもなるもの。

 というわけで、行きつけの喫茶店にいって、コーヒー豆を買いにいくこととなった。

 ……スーパーで売られてるインスタントも美味しいけど、本場のモノが欲しくてね。



 商店街を抜けると、茶色とクリーム色を中心として彩られた建物に行き着く。アイビーがしがみ付く様に壁に生えており、何だか絵本に出てくるような空間。

 ドアを開けるとそこには、何時も通りのアルバイト君がそこに居た。








「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」








 このバリバリ佐賀弁な子は、瀬戸要君。諷ちゃんと同じ学年で、二年と少し前に開いたこの店のアルバイトをしている。

 この子は両親が五歳のときに亡くなっており、以後親戚に預けられることなく施設に入ったそうだ。……と、ここまでいうと中々ヘビィな過去の持ち主だが、人の良い性格にぐだぐだ悩まないところを見ると、そんな過去は微塵も見れない。かなりのお人よしで、高校に入った途端一人暮らしをするようになったのも「もう自分だけでも大丈夫だから」、この店のバイトになったのも「施設の先輩が開いた店だから、お手伝いしたくて」である。



「ところで先生! ケータイの待ちうけば猫が犬か……」
「それ以外に悩み事はないの?」



 確か一ヶ月前に来た時も同じようなことを聞かれた。

 犬と猫どちらも写っている奴にすればいいじゃないか。

 そういうと、瀬戸君は「先生あったまよか!」と、男の子にしちゃ高い声を出した。

 ある意味凄い子だ。その元気を私に渡して欲しいぐらいに。


「そいぎ、先生は何時ものコーヒー豆でよかと?」

「ええ、コロンビアで」



 本当はイタリアンローストとか飲みたいんだけど、皆も飲むしダメね。ブルマンもいいんだけどちょっと高いし。
 何て、テストでは絶対に出ないであろうコーヒーの知識を頭の中で広げる。


「あ、そういやダメナコ先生」

「ダメナコいうな」

「いや、その芸風みやっちのもんじゃ……これ、諷っちに渡してくれん?」

「諷ちゃんに?」



 渡されたのは、小城羊羹(紅煉)だった。



「前やったら気に入ったゆってたけん、知り合いに問い寄せたんや」

「へ、へぇー。そう」

「まだあるとよ。丸ボーロやろ、大納言やろ、カステラやろ……」



 何処まで佐賀をアピールしたいのよ作者。ここ奈良なのよ一応。

 なんていう私の心の中で呟いたメタ発言には気付かず(当たり前だ)、瀬戸君はニカ、と人の良い笑顔で続けた。



「コレ全部土産やけん、御代はなしったい」

「あ、そなの? じゃあ全部頂くわ」

「毎度—」



 ただなら仕方ないわね、ただなら。全部頂くとしよう。
 それが作者の思惑だったとしても。