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Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君(佐賀版)登場!!】 ( No.191 )
日時: 2013/01/07 17:29
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)


「私もね、あの本好きなの。最近の子本読まないから、つい嬉しくてね。こうして、話しかけたってわけ」

「そう、なんですか……」


 彼女は、トーンの落ちた声で返してくる。


 ……アレ?
 ひょっとしてこれ、失敗フラグ?
 中々会話が思うように進まず、私のこめかみには冷や汗が流れた。



「……ひょっとして、本読まない?」


 まさかそんなオチがあったらどうしよう。ガクンと落ち込んだ私は、恐る恐る尋ねた。

 ただ、あの本を借りただけで、読んだわけじゃないとか? ……ぶっちゃけありえる。私も借りたはいいものの、全然読まずに貸し出し期間が過ぎたことがあったから。

 私の落ち込み具合に慌てたのか、無表情だった彼女は慌てて取り乱していった。



「あ、いえ! 本は好きなんですけど、その……ちょっと色々あって、話すことが出来なくて……あの! 悪く思わないでください!」



 さっきの抑揚のない声は、かなり上ずっていた。どうやら私の落ち込み具合は他人から見ても半端なかったらしい。

 ……こんなことで落ち込むなんて、私の本好きは、骨の髄まで刻み込まれているようであった。



「そ、そうなの? なら、良かった……」

「そうです! あたしも、ヘルマン・ヘッセも宮沢賢治の話大好きですよ! 先生も宮沢賢治の話好きなんですよね、あたしもです!! 特に座敷わらしの話とか!! あと、……」



 言い募ろうとする玲ちゃんは、しかしすぐに口を塞いだ。

 0,1秒差で、玲ちゃんの顔は真っ赤になる。



「ご、ごめんなさい……はしゃぎ過ぎました」

「ううん、いいのよ。本好きの人との話は、苦じゃないわ」



 寧ろバッチコイよ。ええ、ホント。

 三也沢君も昔はしょっちゅう本の感想とか言い合ってたんだけど、今は諷ちゃんの勉強に付き合うのに忙しいからなあ。


「嬉しいのよ、同じ趣味の人と話せて。中々気の合う人が居ないからねえ」

「そう、なんですか」

「そうなのよ。人とあわせるのは苦手でねえ」




 私が苦笑いでいうと、玲ちゃんは少し落ち込んだように見えた。

 ……なに、私なんかまたヘマした!?



 ここは聞き出すべきか、それとも話してくれるまで待つか。

 何処が地雷だったのか聞きたいがどうしようと悩んでいると、意外と早く玲ちゃんは話してくれた。


 それは答えというよりも、問いかけだったのだけど。



「あの……先生は、怖くないんですか?」

「何が?」

「人と合わせられないで……除け者にされること、怖くないんですか?」




 その目は、あまりにも真剣だった。そらすことも出来ないほど。

 玲ちゃんが年下なことも忘れて、私も真剣に考えてしまう。


 除け者にされること、……ねえ。

 元々気の合う人しか付き合わないから、そんなことこれっぽっちも思わなかったし、ちょっと前は除け者にされることを望んでいたからなあ。
 私は、昔の事を思い出す為に頭をフル回転する。


 青春時代の私……ダメだ、思い出せない。

 それよりも、自身の子供を亡くしてからの自分しか思い出せねえ。



 ここまで来て、私はもう、息子が死んで三年も経っていたことに気付く。



 あれから、三年。そんなにも昔なのに、随分と鮮明に覚えているものだ。

 何度も忘れようとして、全部、息子の想い出の物は捨てたと思ったのに。

 ……諷ちゃんの親となっては、私はなんて最低なことをしていたのだろうと思うのだけど。





「(……あの頃は、どうなってもいいって想ったのよ)」



 暴れることが出来るなら、自分がどんなに傷ついてもいいと想った。居場所が壊れていいと想った。

 判らないことが多すぎて、やるせなくて、情けなくて、……凄く、悲しかった。

 元々大人数で動くということ事態が嫌だったのだけど、あの時は、自分で自分を殺したかったかもしれない。


 人との付き合いを絶つことで、自分の存在を消したかったのかもしれない。

 何を想っていたのか、まだ心の整理が着かないのだ。

 ただ、一ついえるとするならば。





「……私はね、除け者にされることを怖がるっていうより、置いていかれることが怖いかも」





 その一言に尽きると想う。




「誰かが先に死んでしまうっていうのも怖いし、ふと目を離した時に誰かが成長しているっていうのも寂しいわ。周りと比べて、どうして自分だけ何も出来ないんだろうってね」




 それは、とてもとても寂しいことだった。

 私が閉じこもっていた時は、そんな疎外感を感じて、飛び出すことが出来ずに居たのかもしれない。



 けれど、今は。諷ちゃんたちの成長を見ている今は、それを良い方向に捕らえることが、出来る様になっているかもしれない。