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Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君(佐賀版)登場!!】 ( No.192 )
日時: 2013/01/07 18:04
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)



 そういうと、玲ちゃんはちょっと考え込むような顔をした。

 少し怖かったが、今回のは地雷じゃなかったらしい。でもやっぱ心臓ドキドキだ。




「……あの、先生」
「んー?」
「先生は、その……あたしが不登校だってこと、知ってますよね」
「ええ、知ってるわ」




 本当のことなので、軽くうなずく。

 玲ちゃんは何かをいおうとしたが、すぐに口を閉ざした。……いいたいけれど、躊躇ってる感じだ。



 ……ここで困ってる子を見ると、私はつい手を出しちゃうのみたい。




「私でよければ、取り合えず聞くわ。大丈夫、他言なんてしない」


 ゆっくりと、(自分に)言い聞かせるように、私はいう。

 ……あー、何で私は厄介ごとに首突っ込むんだ。





「……本当、ですか?」


 うおっと、ここで玲ちゃんの上目遣い攻撃だ! 芽衣子は逃げられない!

 ぶっちゃけ取り消そうかなと思ったのだけど、それじゃ玲ちゃんがかわいそうに思えた。


 ……いろんなものを諦めて、私は腹くくる。
 ゆっくりと、しかししっかりと頷いた。


 すると玲ちゃんは、フウー、と息を吐く。

 どうやら、溜め込んでいたものが沢山あるようで、心を落ち着かせているようだった。





「——実は……」




「大変お待たせ致しましたァ! こちら、コーヒーとショートケーキ、紅茶とレモンシャーベットです!」





 ……一瞬、空気が凍った。

 隣の席でオーダーを取っている瀬戸君が、『オイ何やってんだァ!』という目で、KY店員を見ている。

 ……これはない。私がいう台詞じゃないけど、これはないよ。


「では、ごゆっくり!」KY店員はその場を去る。
 ごゆっくりなんて出来るかバカ野郎。




「……玲ちゃん?」



 恐る恐る、固まった玲ちゃんの方を見る。

 ハッ、と気付いた彼女は、ガタン、と席を立った。


「ゴメンなさい、さっきのは無しで」

「え!?」

「もう帰ります、すみません!」



 逃げるように、玲ちゃんは席を立つ。

 颯爽とレジで支払い、そのまま逃げるように帰っていった。



 置いてかれたのは、手付かずの紅茶とレモンシャーベットだけ。

 KY店員は、自分が空気を壊してしまったなんてことには気付かず、笑顔のままオーダーを取っていた。




「……スイマセン、先生。オレの後輩ば……」

「……いいのよ、瀬戸君」




 瀬戸君が、悪いわけじゃ、あるまいし。

 ……あまりの破壊力に、軽く川柳を読むほどKY店員はKYだった。





             KYもほどほどに


(まあ、過ぎたことは仕方がないか……)

(ホントにすまんばい……)










 まあ、そんなこともあった休日なわけだけど。
 次の日は普通に、仕事する為に学校へ行く。
 まだ、生徒は来ない時間。どっちかといえば私の出勤は、教師の中でも早いほうだと思う。
けれど、職員室は、何時も以上に騒がしかった。

「……どうなされました?」
「ああ、光田先生! 大変なんだ——!!」

 私が聞くと、教頭先生は汗をにじませて、こういった。



「一年B組の上田が! 行方不明になってるんだよ!!」




 それは、偶然の出来事だったはずだ。
 ただ、創立記念日で休みだっただけで。
 こんな暑い中、買い物に出かけたのはコーヒー豆が切れたからで。


 けれど、偶然といえるのだろうか。
 喫茶店に、泣いていた玲ちゃんが居たことは。
 その時に、つい話しかけてしまったのは。

 私には、判らない。





 暑い、暑い、夏の日。けれど、今朝は涼しかった。
 ひぐらしは、まるでこの事を起きることを予測していたかのように、


 ————何時もどおり、カナカナと鳴き続けるのだった。