コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照2200突破感謝祭更新!!】 ( No.214 )
- 日時: 2013/01/21 19:38
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
ひぐらしが、鳴く。
蒸し暑い早朝。田舎とはいえアスファルトで整備されている道を、俺はただひたすら歩く。
今日、早く起きて早く登校したのは、あまり意味はない。ただ、目が覚めた後、テレビを見たりゆっくり食事したりする時間に割かなかっただけで、いうならば気まぐれだ。だから、今日一日を特別な日にしようとか、そんなことは思わなかった。何時もどおりの日常が始まるのだと思った。
……思った、のに。
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」
「……さあ、何かいいたかった気分なんだよ」
俺が返すと、「何ソレ」と杉原に怪訝な顔をされた。……まあ、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
学校に来てみると、パトカーが三台ほど止まっていて、そこに突っ立ってたダメナコに聞いてみると、どうやら一年生の女子が行方不明になっていたのだ。
「行方不明……神隠しかなあ。時期も夏だし」なんてことを杉原が呟いた。思わず俺は、うぐ、という奇妙な音を出してしまう。
「うんな非科学的なことあるかい!」
「……つい最近まで、非科学的なことありまくったのに?」
俺がツッコミを入れると、杉原は更にツッコミを入れた。俺は言葉を詰まらせる。
……確かにそうだ。フウが生霊のままこの学校をさ迷ったとか、何故か俺だけその姿が見えたとか、半世紀以上仮死状態だったとかそして生き返ったとか。
——最近、常識が通用しない日常を送っているような気がする。
……ここ数年で、自分の頭の中にある常識やらルールやら理屈は、あまりにもちっぽけであるということを、とことん理解させられた。嫌というほど。これでもかというほど。
だから、杉原がいった「神隠し」がない、なんていいきれない。
だが。
「確かに世の中は不思議なことだらけだろうけど、だからといってそんなことが毎日あってたまるかっ」
俺の言葉に、ポカン、とする杉原は、その後神妙な表情でうなずいた。
「……まあ、それもそうだね」
「だろっ」
第一、行方不明者がうちの学校の生徒とはいえ、俺は名前も顔も知らない相手だ。関係ないといえば冷たいだろうが、友達でもない俺らが心配しても邪魔になるだけである。俺たちが出来ることは、無事見つかることを祈ること、見つかるまで何時もどおりに過ごすことを務めることだ。
そうと決まれば、もう俺たちには職員室の前で突っ立っている必要はない。
「ほら、杉原行くぞ。ダメナコも何時までも突っ立ってないで……」
俺は言葉を続けるのを止めた。
何故なら、俺は見て驚いたのだ。
ダメナコが、見たことのない程青ざめた顔色で居たことに。
「……ダメナコ?」
「……ひょっとしたら、私のせいかも知れない……」
ボソボソと、呟くダメナコ。
その声は本当にか弱く震えて、頼りないほどに消えてしまいそうな声だった。
両手で身体を抱いて、必死に強く保とうとしたが、だんだんと身体は震え上がっていく。
一瞬、騒がしく、木霊していた廊下の空気が、静まったような気がした。
その中で、バタン、と倒れた音は、何処か不吉で、鈍くも良く通る音だった。