コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照2200突破感謝祭更新!!】 ( No.217 )
- 日時: 2013/01/21 20:23
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
「……で、それとダメナコがぶっ倒れたことと何の関係があるんだ?」
俺が話を切り込むと、今度は瀬戸が説明した。
「実は昨日、俺がバイトしとる喫茶店に、ひーたれた玲ちゃんが来とって」
「泣きながら?」
俺が聞くと、瀬戸はコクン、と頷いた。
「どーしたっとかなー、と思っている最中に、コーヒー買いにきたダメナコ先生が来て、ダメナコ先生にどがんしたのか聞いて欲しいってゆったら、良いってゆーて……。ところがどっこい、聞き出そうとした途端、邪魔が入って、肝心のとこば聞けんかったばい。その後玲ちゃん逃げたけん」
「その話を、わたしは芽衣子さんから直接聞きました。多分、その子が失踪したと聞いて、自分のせいだと責めてしまったんでしょう」
瀬戸に続き、フウが口を挟んだ。
俺は、そうか、と頷くことしか出来ない。
ここで、今まで何も聞かなかった杉原が質問した。
「……ねえ、瀬戸君。その口ぶりだと、玲ちゃんのこと知っているように聞こえるけど……」
「あー。俺、一度玲ちゃんと顔ば合わせた事あるけん。中学校の頃、剣道部の助っ人の時に、うえっちに紹介されて」
「そうなんだ」
「……でも、その時から、玲ちゃんは不登校やった」
瀬戸の一言に、杉原は口をつぐんだ。
杉原の様子に、瀬戸は手を振って焦った様子を見せる。
「あ、でもでもでも! そん時は少し、嬉しそうやったばい!? やっぱりあれやと思う、お兄さんが家に来たから……」
「……お兄さんが?」
「家に来た?」
最後の言葉を、杉原とフウは聞き逃さなかった。
……反対に瀬戸は、「あ、いっちゃった」という顔をしている。
「……ねえ、それってどういうこと?」
「包み隠さず丁寧に、説明してくれますよね?」
グイ、と女子二人は「女の顔」をして瀬戸に聞く。
追い詰められた瀬戸は、俺に「助けろ」と視線で訴えてきたが、俺は見事ムシした。助けてくれる見込みを見つけられなかったのだろう。意外とあっさり降参して、瀬戸はこれまでのことを話した。
◆
——ねえ、ママ。どうして玲には、パパが居ないの……?
——皆、一人ずつパパが居るのに。ねえ、どうして?
小さい頃あたしが聞くと、ママは何時も困った笑みしかしなかった。
ただ、あの時だけは。
——ねえ、玲弟か妹欲しいなあ。お兄ちゃんやお姉ちゃんはムリだろうから。
——一人でお留守番は、寂しいもの。
……あの時だけは、ママはとても、とても傷ついた顔をした。
その時あたしは、我がままをいってはいけないと、思ったのだ。
一人は、怖い。一人は、寂しい。
だから、誰にでも好かれようと。誰にでも嫌われないようにと。
——ずっとずっと、痛いものから目をそらし続けた。
でも、それも長続きしないで、疲れ果てて、一人になった。
人と接するのが怖くて、でもやっぱり一人は寂しくて、怖くて。
そうだ、あの時も。
あの時も、凄く暑い夏のお昼間で。本当に気まぐれで、外に出歩いていたんだ。
暑くて、財布も帽子も忘れてしまったドジなあたしは、広場に大きな木下で休んでいた。外の空気も、自分の体温も下がらなくて、息が上がって苦しくなって。だんだんと、視界が歪んできた。その時に——……。
『……そこに居るのは、誰ですか?』
——あの子に、会ったんだ。
昔話をしましょうか
(一人の青年は、第三者として語り)
(一人の少女は、当事者として一人で思い出す)