コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照2500突破記念感謝祭更新!!】 ( No.224 )
- 日時: 2013/01/25 12:16
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
……そっか、気絶しちゃったのか、あたし。
「……ごめんなさい」
「僕に謝っても仕方がないでしょう」
意外と真剣に謝ったのに、バッサリと切り捨てられた。
しかも苛立っているのか、表情では判断しにくいが、言葉に棘があるようだった。
え、ええー。どうすりゃいいの、あたし。
何て困惑していると、男の子が「ごめんなさいじゃなくて」と続けた。
「『ありがとうございます』、でしょう? 謝罪より、僕はお礼のほうを貰いたいです」
その言葉に、あたしはポカンとした。そんなこと、いわれたことがなかったから。聞いたことがなかったから。
「あ、ありがとうございます」あたしは少し俯きながらいった。
そしたら、
「どう致しまして」
って、いって、その子が笑った気配を感じた。
慌てて顔を上げると、その子はやっぱり無表情だった。
「(……きのせい、だったのかな)」
でも、もしそうだったとしたら。
……勿体無かったって、何だか凄く悔しかった。
「……どうしましたか?」
後、ちょっと恥ずかしかった。気持ちを悟られないように、あたしは笑って誤魔化す。
「……ねえ、名前聞いてもいいかな」
気まずさゆえに唐突に発言しちゃったあたしの質問に、その子はパチクリと目を瞬かせた。無表情のまま。
こうして、あたしは「人の名前聞くならまず自分からと教わりませんでしたか?」と、説教を食らい、互いに自己紹介した後、部屋に入ってきたその子そっくりなお母さんが「お友達が無事でよかったですね」といい、雰囲気に流されてそのままお友達になったのである。
その子は、武田静雄という名前だった。あたしは、武田君と呼ぶことにし、武田君はあたしを、三浦さんと呼ぶようになった。
暫く武田君のお母さんとお話をした。やっぱりというべきか、彼女も中々のポーカーフェイスだったが、たまにふんわりと笑う姿は、とっても可愛らしかった。不意に、出会ったときに武田君がした膨れっ面が脳裏に浮かぶ。それを無意識に重ねていた。
「(似てるなあ)」
きっと、膨れっ面も、武田君と一緒で可愛いのだろう。
お話も面白くて、退屈しなかった。素敵なお母さんだなあ、と素直に思えた。
一通り話し終わり、時計を見ると、もう六時半だった。そろそろ帰ろうと思い玄関に出る。その時ようやく自分が迷子だったことを思い出したあたしは、真っ青な顔で武田母子に説明した。
「……全く、十四で帰り道も判らないなんて。バカなんですか?」
ピシャッ、と戸を閉めながらいう武田君は、中々迫力がある。
「……スイマセン」
正論が痛い。しかし、今日初めて会った女の子に「バカ」はないだろう。
……と、いえないのは、あたしがチキンだからだろうか。
「まあ、迷子になって困るのはこちら側もですし、僕が家まで送ります」
「あ、ありがとうございます……」
ありがたいが、ちょっと嫌な帰り道になりそうだった。
何ていうか……新たに出来た友人は、意外と辛辣だ。いいたいことを容赦なくいう。
あたしとは、正反対だ。
「(……この人とのお友達関係は、何時まで続くのだろう)」
ふと、過ぎった考え。
あまり期待はしなかった。だって、成り行きでなっちゃった感じだし、あたしと武田君は正反対で、似ているところなど見つからなかったから。
友人は欲しい。長く続いて、あたしのことを理解してくれる友人は、望んでいたモノだった。
けれど、そんな人など何処にも居ないだろう。
「(こんな、弱くて我侭なあたしのことを理解してくれる人なんて)」
多分、これが最後になるだろうなあ、と、あたしはただ思った。
別に、寂しくも悲しくもなかった。
この時、までは。