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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『玲の過去』更新!!】 ( No.240 )
- 日時: 2013/01/27 17:44
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992
「……それにしても、ビックリしたったい。まさか、うえっちに妹がおったなんて」
「アハハ、ビックリするのも当たり前です」
話しばしていくうちに、だんだんと玲ちゃんも打ち解けて敬語が砕けて来た。
中々話し上手やったけん、俺は思わずこういったんじゃ。
すると玲ちゃんは、あっけらかんとこういった。
「だって最近まで、あたしもおにいさんが居たこと、知らなかったんですから」
「え……?」
——意外な回答に、俺は聞き返していたったい。
「離婚したんです。うちの両親は、あたしが生まれる前に。で、パパが肺がんを患って、余命一ヶ月なんですよ、もう。だから、せめて最後は看取ってやろうって、ママとパパは復縁したんです。その時に、おにいちゃんと初めて顔を合わせました」
すらすらと、何てことなく玲ちゃんはいうが、俺は冷や汗ば止まらなかった。
その、……あまりにもヘビィやったけん。
けれど、いっちょん気にして無いわけじゃないやのうて、玲ちゃんはこう続けたったい。
「……あたし、ちょっとしたお荷物なんですよね」
「お荷物……?」
玲ちゃんは、ちょっぴり自嘲気に笑うた。
「こんな大変な時期に、しかもあたしは受験生だっていうのに……不登校なんですよ、今。学校も行かないどころか、まともな生活も送れてない。ビックリするでしょうけど、あたし何時もはトイレに閉じこもって腹痛と闘っているんですよ?」
「なんや。意外と普通ったい」
あっけらかんと、俺は答えた。
玲ちゃんは、目を丸くする。
……いや、普通じゃなか。後からいーて俺は後悔したったい。でも、俺の中じゃ意外と「普通」やったけん。
「俺も、不登校の時はそうやったったい。お腹ば壊したり、夜眠れなくなったり、食事もまともに出来んかった」
◆
「ちょっと待て! おま、不登校だったのか!?」
「ああ、そうやけど。小六の時に、ちょっと言葉がきつか担任に当たってな。他んは大丈夫みたいじゃったけど、俺はかなり体調崩しもうて。小六の秋ごろから、中二の冬まで不登校やったんよ」
「何ね、そんなに珍しか?」目を瞬かせる瀬戸。こっちがそうしたいったい。あ、口調移ってる。
「人は……」
「見かけによらないね……」
フウたちも驚いたようで、目を点にしていた。
「……話、続けてよか?」
「あ、うん……」
「どうぞったい」
教訓、人は見かけによらない。無防備に接していると、ヘビィな過去をあっさり明るく丁寧に説明される。すると、あまりのショックにその人の口調が移ってしまう。
この現象を、瀬戸ショック、と名づけようか。
◆
「……瀬戸さんにも、そんなことがあったんですか」
玲ちゃんが、戸惑いば隠さずいった。
「ごめんなさい、瀬戸さんだって辛い目にあったのに、こんな愚痴……」
「あ、気にせんどいて! 俺も、聞いてもらいたくていってるだけけん」
玲ちゃんが深々と頭ば下げる勢いで謝ったけん、俺もちょっと慌ててしもうたばい。
ちょっと、失敗してしもうたか。けれど、是非とも聞いて貰いたかったばい。
「……最初なあ、俺は、自分が悪いと思ってたんよ。先生が怒っとるんは、俺が失敗しとるせいで、先生は悪くないって。今傷ついているのは、自分の我慢が足りんせいって」
「……」
「でもなあ、だんだん、学校にいきたくなくなったばい。いかなきゃ、と思うていこうとすれば、頭が真白になって。そのうち、腹痛に悩むことになって。
もうダメだ、と思って、俺のこう……お母さんに、いったんよ。学校休みたいって」
後見人といいそうになって、言い直したったい。
……流石に、施設出身です、なんていったら、卒倒モンったい。
「……でもなあ、その人も中々厳しい人で、『学校は行くものです。それでも学校を休みたい理由を説明なさい』って、キツイ口調でいわれたんよ。
その時、また頭が真白になって」
……どう話せばいいのか、判らなくなったったい。
だって、今までされてきた具体的なことが、一気に忘れてしもうたけん。
なのに、悲しいって思ったことは、いっちょん消えん。
涙が、こぼれそうになったったい。だから、その場で『学校に行きます』と答えた。
その姿を叩かれると思った。あの担任の先生のように、
——慕っとる人に、『泣くなんて甘ったれ』って、見捨てられると思ったけん。
……そう、やっと思い出したばい。
俺が今まで、いわれてきたこと。
あの先生は怒鳴り声がすごか人やった。怒鳴り声なんてもんじゃない。罵声も含まれていたったい。
その中に、『叱られただけで泣くなんて、何て甘ったれなの。人間以下よ。親の顔が見てみたい』といわれたったい。
……その後、あざ笑いながら『ああ、貴方には親は居ないもんね。施設育ちだもの。人間以下に育っても仕方がないわ』といわれたったい。
悔しかった。悲しかった。
けれどそのままぶつかれば、きっと俺はひーたれながら怒鳴っていたったい。……そしたら、同じことになってしまう。相手が傷つくかはどうかは知らん。そやけど、自分がされて嫌なことをしたくはなかった。
傷つけられたからといって、傷つき返したくはなかった。