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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『玲の過去』更新!!】 ( No.241 )
- 日時: 2013/01/27 17:48
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992
今思えば、上手く説明できずに引き下がったのは、あの人に心配ば掛けたくなかったというのも、あったと思うったい。
「……でも、ついに我慢の限界が来てな。腹痛はすごか、頭痛もすごか、耳鳴りもすごかで、ついに精神科の病院に連行されたばい」
「うわあ、あたしと見事一致ですね、それ」
「やっぱり、玲ちゃんもそうやったんね。まあそこで、俺は綺麗に白状してな。今までのことも、学校に行きたくないことも、全部話したったい。そしたら、……」
——……そしたら。あの人は、俺ば抱きしめて、ひーたれながらいった。
「ごめんなさい」と。
貴方の傷の痛みに、気付いてあげれなくてごめんなさい。貴方がせっかくいおうとしてくれたのに、責めるようないいかたをしてごめんなさい。
私は、親失格ですね。ここまで傷つけて追い詰めて、貴方のことも考えずに一方的なことをいって、本当にごめんなさい。
本当に、ごめんなさい。そして、ありがとうね。
ちゃんと、自分のことを話してくれて、ありがとうね……。
「……謝って、くれたったい」
「え……?」
「感謝も、していたったい。……そしたら、とっても、心が軽くなったばい」
判って、くれたのだと。
自分の傷を、判ってくれたのだと。
嬉しくて、優しくて、涙が零れてきた。
……あの人から見れば、仕方がなかったことじゃろう。
だって、学校はいくものやけん。義務教育で、それが義務付けられてるけん。それが、一般論で、あの人にとっては常識やったけん。
——それでも、俺のことば考えてくれたけん、がばい嬉しかった。
「その後、その人は学校にいって、担任と話合った(ことになってる)ばい。そして、保護者を集めて、緊急会議を開いたったい。その中で、何人かの生徒が、俺と同じ状況になっとるってことが判明したったい。俺は療養中ということで学校ば休んだ。卒業式だけはいった。担任は卒業式が終わった途端、先生を辞めたったい」
あの人、新聞見て怒っとったなあ。こっちは慰謝料貰いたい気分なのに、卑怯者!! って。
毎朝いっとったけん、俺の朝は苦笑いから始まっとったなあ。
「中学校を上がっても、すぐには学校にいけんかった。体調はよーならんかったし、なにより俺の事情を知らん奴からは、『卑怯者』『えこひいき』ってしょっちゅういわれたったい。……それで、更に追い討ちをかけるようになったんやけど……。ある日な、救世主が現れたったい」
誰だと思う? と聞くと、玲ちゃんは即座に「わかんない」と返したったい。
……もうちょっと、考えて欲しか。
「それがな、うえっちなんよ!」
「え、おにいちゃんが!?」
俺の言葉が意外やったんじゃろう、玲ちゃんはビックリした声ば上げたったい。
「ありゃあ、二年の秋じゃった。毎朝うちに押しかけてきてな。どんなに腰を置いても引っ張られたし、それが例え遅刻しても、『いくほうがましじゃ!』っていって、俺ば引きずって……。じゃから俺、根負けして学校に来れるように頑張ったばい」
そしたら、お腹の痛みも殆ど消えとった。
身体のだるさしか残らない日常は、だんだんと充実感と疲れが残る心地よい日常になった。
そのうち陰口も消えて、普通に学校に来れるようになったったい。
「最初は、授業がいっちょん判らんかったけど、皆が勉強教えてくれて、嬉しかったよ。うえっちも成績はいまいちやったけん、一緒に補習ば受けたったい」
「それでやっと、毎日が楽しくなったんよ」と俺が笑うと、玲ちゃんも笑った。
「だからな。……無理して、学校にいく必要はないと思うったい」
「え……?」
「玲ちゃんは今、心の傷を癒しとるんよ。その為の期間じゃ。今身体が休め、ていうとるから、心も休んでるんったい。体の傷も、心の傷も、治る期間は人それぞれやと思う。それに、今玲ちゃんは考えんほうがいいと思うばい。いったん頭を真白にして、上から楽しいことや嬉しいことを、書き足していかんといけん」
「……そう、でしょうか」玲ちゃんが俯いて聞いた。
「そうったい」俺が返すと、玲ちゃんは更に俯いた。
「……あたしが本格的にこうなったのは、友人と喧嘩しちゃったからです」
ポツリ、と玲ちゃんがいった。
「昔はたいした事をしてないって思ってたんですけど、その子が凄く傷ついた顔をして、やっと事の重大に気付きました。でも、謝る前に、その子引っ越しちゃって。……あの子も、あたしと同じように傷ついているんじゃないか、引きずってるんじゃないかって思うと、自分だけが楽しい想いをしていいのかなあって、考えると……」
速い口調でいったせいか、所々噛んでいる玲ちゃん。それでも気にせんのは、苦しい想いがそのまま言葉として溢れたからじゃろう。
ちょっと落ち着かせるため、俺はあえてゆっくりとした口調で聞いた。
「うーん……俺は当事者じゃないけん判らんけど。友人、やったんじゃろ?」
玲ちゃんは、コクン、と頷いた。
「なら、喧嘩するのは当たり前ったい。そんなの、俺とうえっちの間にだってあるったい!」
「……そう、なんですか?」
「そうったい!」
玲ちゃんが、あんまりにも驚いた顔ばしたけん、思わず俺は声を大きくした。
「でも、仲直り出来たら、もっと仲良くなったけん。それでいいったい。バカなことも、傷つけることも、後で修正できるけん、安心して心を開け。これは、院ちょ……じゃなくて、俺の第二のお母さんな人がいったんじゃけど……玲ちゃんのお母さんには、これと似たようなことはいわれんかった?」
院長といって、モロ施設のことば自分でばらそうとした。危ない危ない。
「……いわれませんでした。誰にも。だから、人の接し方も、良く判らなくて、何時も失敗して、……人が怖くなりました」
「……そう、ったい」
この時、俺はてっきり、「友人というものは〜」のことを、親から聞かされているものだと思ったったい。だから、玲ちゃんが何故ここまで苦しんでいるのかが、良く判らんかった。
だったら。
「……だったら、俺が教えてやるったい!」
「……え?」
「友人とか、人との接し方が判らんかったら、誰かに聞くのが一番じゃ! な、ええじゃろ!?」
そうだ、判らないなら聞けばいいったい。
聞いてくれたら、教えてあげれる。判らなかったら、一緒に考える。
人の接し方も人それぞれやとおもうけど、参考にはなるハズったい。
これから少しずつ、学んでいけばいいんじゃけん。
俺が明るくいうと、玲ちゃんは少し、嬉しそうな顔ばした。