コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『武田と玲』更新中!!】 ( No.255 )
- 日時: 2013/01/30 18:05
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992
暫く歩くと、もう大丈夫、と彼女がいいました。
ここで、お別れです。
名残惜しくも帰ろうとしたとき、彼女から声を掛けられました。
「また、……会ってくれる?」
——また、今度……。
幼い頃の彼女と、今の彼女の姿が、重なって見えました。
ただ、違うのは、幼い頃の彼女は笑顔満面で、今の彼女は、何処か不安げでした。
「……はい、よければ明日」
あの時僕は、無性に嬉しくて、らしくない口調でいったと思います。
それから毎日、部活が終われば、あの木の下で待ち合わせをしたり、たまに彼女が家に来たりしていました。
外は暑いので、大抵は屋内で過ごしました。ゲームをしたり、ただ普通に駄弁ったり。
楽しかったです。彼女と一緒に居られて、嬉しかったです。
僕とは正反対に、何時も笑顔を浮かべられる彼女が、羨ましかったです。
でも、その楽しい日は、ある日唐突に終わりを迎えました。
「……え、転勤?」
僕が思わず聞き返すと、お母さんは困ったように、ええ、と答えました。
「どうやら、蔵人さんが、『ちょっと難解な事件があるから来て欲しい』……って。あっちの刑事さんたちも、どうやらかなり参っているようで……」
蔵人さん、というのは、僕のお父さんの名前です。
「とりあえず、一年ほど務めればまたこっちに戻れるみたいなんですが……どうします? 静雄がここに残りたいのなら、知り合いの家に頼んであなたを預けさせることも……」
「いや、いいです」
キッパリと僕は断りました。
「静雄……」
「あっちってことは、お父さんが居る所ですよね? なら、あっちに行けば、家族皆で暮らせますよね?」
僕が聞くと、申し訳なさそうにしていたお母さんの顔は、ゆっくりと、笑顔に変わっていった。
「え、ええ……! 一緒に、皆で暮らしましょう。早速引越しの準備を……あ」
「……どうしましたか?」
「……静雄は、玲ちゃんにお別れをいってきなさい」
お母さんの言葉に、僕はあ、と思い出しました。
そうです。引越しをするのなら、まず彼女にお別れをしなければなりませんでした。
「……静雄、やっぱり引越しは」
「大丈夫です」
せっかく笑顔になっていたお母さんの不安そうな顔を見て、僕はすぐに遮りました。
そうです。何時も会えなくなっても、文通や電話をすればいいだけです。高校生になれば、メールも使えるようになるでしょう。休みにまたここに来ればいいし、なによりもたったの一年経てば、またここに戻れます。
「じゃあ、そろそろ三浦さんと約束の時間なので、いってきますね」
そういって、家を飛び出しました。
「……何で」
僕は、彼女に向かって呟きました。
待ち合わせの木の下で待つこと数分、突然、彼女の悲鳴が聞こえました。
僕は慌ててその悲鳴の聞こえたほうへ向かいました。
……でも、何でそこが、樹海だったのでしょう。
しかもよりによって、なんでそこに、山田さんが首を吊っているのでしょう。
「……何で、森に居るんですか」
「……た、たけ、だくん」
呆然とした後、怒りが、ふつふつと湧き上がってきました。
「約束したじゃ、ないですか。なんで、なんで居るんですか」
「ち、違う。あたしは」
「いい訳なんて聞きたくないッ!!」
彼女の言葉を、僕は怒りに流されたまま、遮りました。
見られたく、なかった。
あんなの、見られたくなかった。
しかも寄りによって、彼女も顔合わせしている山田さんです。
どうして山田さんが自殺したのかは判りません。しかしそれよりも、彼女に知られたくなかったことを知られたことが、約束を破った彼女が、そしてこんな時でも、ヘラヘラと笑っている彼女が。
——どうしても、許せなかった……!!
「見損ないました……あれほど、嫌だったのに。
何で貴女は、笑ってるんですか!! もういいです!!」
僕は、笑っている彼女が、好きでした。
でも嫌いになったのも、彼女の笑みでした。
そのまま、彼女に背を向けて、森を出ました。
そしてそれが、最後の言葉になりました。
◆
「……その後、三浦さんは、病院に運ばれました。入院している時に、何度か別れを告げようとしたのですが、怒りがまだ残っていて、向かおうとしては引き返しました。そうしているうちに……」
「引越しの日を、迎えちゃった、ってことですか」
フウが聞くと、武田はコクン、と頷いた。
「……みやっち、今の話ば聞いて、何か判った?」
瀬戸が、遠慮がちに聞いてきた。
このタイミングで聞かんで欲しかった。
「俺に聞くなよ……といいたい所だが、実は、心当たりが一つだけある」
「え!?」
「ケンちゃん、判ったんですか!? 玲ちゃんの居場所が!」
フウがビックリして立ち上がった。
「……瀬戸、お前、ダメナコに上田の妹が何か話そうと止めた際、逃げるように店を出た……って、話したよな?」
「あ、うん。そうったい。でも、それが……?」
「……俺も、追い詰められた人間だからこそ判るんだが、追い詰められた人間って奴は、単純かつ極端なことをするんだよな。瀬戸の話と武田の話を照合させて考えると、上田の妹の不登校……というか、心の傷は、武田と仲違いが原因だと仮定できる。としたらだ、上田と武田の縁が強い場所といえば……」
「……まさか、樹海ですか!?」
察しのいい武田が、珍しく声を上げた。
「証拠も確信もないが、可能性はあるだろう。それに、もう昼を過ぎたっていうのに、先生たちまだ帰ってこないしな……」
時計を見れば、もう既に一時。
俺たちも、かなり話し込んでいたみたいだ。
「……みやっち!」
瀬戸が、真剣な表情で俺の名を呼んだ。
……あー、いいたいことは判った。
「仕方がない。行くぞ、瀬戸、武田!」
「おっし!」
「え、ちょっと、僕も!?」
「当たり前だろ!」
思いついたら即行動。学生としては危ない行動かもしれないが、今はそんなのどうでもいい。悩む前に行動だ。
この場合はきっと、早い方がいい。
「だったら、あたしたちも……!」
杉原とフウも、外に出る準備をしようとしたが、言葉で止める。
「フウと杉原は留守番しといてくれ! ダメナコが目を覚ますかもしんないし!」
困惑している武田の腕を掴み、俺たちは保健室を後にした。
いつの間にか、巻き込まれていたけれど
(これが縁という奴なら、仕方がないだろう)
(それに、全く知らない奴ではなくなってしまった)
(さっさと上田の妹探して連行しよう)