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Re: 臆病な人たちの幸福論【ついに……3000です!!(感涙】 ( No.266 )
日時: 2013/02/05 18:14
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode


「玲ちゃんは、許してくれるったい」


 武田の言葉を、瀬戸が遮った。
 思わず俺は、瀬戸のほうに顔を向ける。


「玲ちゃんは、別にたけっちに傷つけられたとか、思っとらんばい。寧ろ、傷つけたと思ったから、引きこもってしまったんよ」

「え……?」

「玲ちゃんも、たけっちも、似たもの同士なんよ。たけっちは、謝れば謝る分まで傷つけるかもって思ったんやろ? 玲ちゃんも同じで、自分が居れば、皆ば傷つけてしまうんじゃなかろうかって、そう思って引きこもったんよ。ホントは、皆が皆、傷つけあっとるんやけどね」


 やから、と瀬戸は続けた。


「たけっちが、今思ったことを玲ちゃんに話せば、玲ちゃんもたけっちも、少しは救われるんじゃなかろうか」
「……そうで、しょうか」


 武田が珍しく、不安げな表情を浮かべた。
 瀬戸は「そうったい!」といって、ニカリと笑った。その姿は、とても頼もしかった。

 ……彼もまた、殻に閉じこもったり、殻を破ったりして、苦しんで悲しんで、でもそれを乗り越えて強くなった人間の一人だろう。
 その姿は、純粋に凄いなと思った。

 だから瀬戸の言葉は、とても重くて、とても優しいんだ。


「(……だったら、俺は)」


 俺なりの言葉をいってやろうじゃないか。


「……あのさー、ここまで長文いえんなら、さっさと行動しろよ」
「みやっち」


 瀬戸が嗜めるようにいう。
 ごめんな、瀬戸、武田。口下手な俺は、どうしても傷を抉るような言葉しか掛けられないようだ。
 でも、俺なりに考えていっているから、聞いてくれ。


「昔のことグダグダいっても、何にも変わらないだろ。確かに、謝って済むなら警察は要らないって言葉があるぐらい、何でもかんでも謝って済むことはない。でも、だからといって、悪いことをしたら謝るっていうのが、ルールだろ?」


 ——そう。そうなのだ。
 悪いことをした。だから謝ろうとした。でもひょっとしたらその行為が、逆に相手を傷つけるかもしれない。
 でもそれは、やってみるしか、確かめる術がないんだ。謝ってみるしか、方法はないんだ。


「約束を破った上田だって問題点はある。けれど、その裏まで考えずに責めたお前も、やっぱり問題点がある。でもさ、どっちも悪くないんだよ。どちらも、仕方がなかったことなんだよ」

「何を……」

「人と人には、それそれ違いがあるんだ。判るだろう。だから、最初はとても戸惑う」


 受け取って良いのか、そのせいで自分はどうなってしまうのか、どう行動すればよいのか。
 全然判らなくて、手探りでやるしかなくて、でもやっぱり、乱暴な行動になってしまう。
 それは、仕方がないことなんだ。そうやって、学んでいくしかない。
 問題は、そこじゃないんだ。


「けど、誰かの傷というのは、必ず見えるはずだ。見えるのなら、その傷が自分のせいだと自覚できたのなら——だったら助けに行けばいいじゃないか」


 相手の気持ちになって。良く聴く言葉だ。


「……こんな偉そうなこといってるけどな。今の俺には、お前や上田の妹の失敗を赦すことも、苦しみを取り除くことも出来ない。ってか、多分俺じゃダメだわ」


 けれど、本当にその人の気持ちになるなんてことは、不可能だろう。


「だって俺は、当事者じゃない。お前らのこと、何にも知らないし。……お前らの苦しみも失敗も、取り除いたり赦したり出来るのは、知っているお前らにしか出来ない」


 人の気持ちを判ることに、意味はない。


「傷を負わしてしまうほど大切に想っている奴こそが、助けに行かなくちゃいけないんだよ……!!」



 ——人のことを思いやり、その人の気持ちを『考える』。

 それこそに、きっと意味はある。考えるのを止めたら、人間は変わることも進むことも、上手に逃げる方法も身につかない。
 逃げることは、悪いことではない。問題から距離を取る、ということも、一つの手段だ。
 けれど、それは問題から逃げる方法であって、必ずしも、「自分から逃げる」方法ではない。

 自分から逃げる方法なんて、存在しない。逃げた挙句、足を切断したフウがいっていた。「本当の安全地などない」と。

 何時かは問題にも、立ち向かわなければならない。でもそれは、やっぱりタイミングと技術が必要だ。無理に問題を解決させようと思えば思うほど、焦りと苦しみが生まれるから。でも、早く解決したいって思うのは……「そうなっている自分」を受け止めれず、逃げてしまっていたのだと思う。
 解決しようと、焦らなくて良かったのだ。寧ろ、ゆっくりいくべきだったこいつらは、逃げるやり方を間違えたんだろう。多分な。


 おおっと、話がかなり逸れたな。
 まあいいたいのは、「本人同士でじっくりと、向かい合って話をするしかない」ってことだ。
 俺たちにはテレパシー、なんてモノはない。人の心を隅々までわかることは、絶対に無理だ。

 でも俺たちには、口があるだろう? それを聴く、耳があるだろう?

 ちゃんと言葉に表せれば、それを相手がちゃんと聞けば、かならずいいたいことは伝わるはずだ。それが上手くやれなくても、根気良く、じっくりとすれば、必ず伝わるはずだ。


「……たけっち」


 遠慮がちに、瀬戸が武田に声を掛けた。
 武田は、少しばかり俯いていたが、やがて、スッと顔を上げた。


「……すみません、先輩方」


 その顔は、憑き物が落ちたような顔だった。


「三浦さんと、話をします。だから……もう少し、僕に付き合ってくれませんか?」
「はなっからそうするつもりだ」


 俺は武田の言葉に即答した。
 瀬戸も、隣で微笑んだ。


「今気持ちが前向きになったからといって、調子に乗ってヘマすんじゃねえよ!」
「三也沢先輩にいわれたくないですね」
「いうようになったなあ、たけっち」


 そろそろ、体力が限界になってきた。
 足だって、少しばかり痺れている。
 おまけにこの暑さが、走ろうとする気を殺いでいく。

 ——それでも俺たちは、走るスピードを落とさなかった。


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