コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【ついに……3000です!!(感涙】 ( No.269 )
- 日時: 2013/02/05 18:45
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
最近、昔のことを思い出しても、そこまで辛くならなくなった。
多分、ケンちゃんのお陰でしょう。
毎日が楽しくなって、明日を待ち遠しく感じる今、あの日々は何だか遠く感じてきた。
それでも。
『生まれなければ良かった——……』
父のいわれた一言は、忘れられない。
毎日が楽しいと感じれば感じるほど、昔の思い出は、容赦なくどん底に叩き落す。
それは恐らく、感受性がまともになってきたのだろう。
逆にいえば、昔のわたしはまともじゃなかったのです。
まともじゃいられないほど、わたしの生活は酷いものだったのだ、と最近気づくようになりました。
最近、夢を見た。父に殴られる夢を。母に罵倒される夢を。
怖くてみっともなく泣き出した。芽衣子さんに、真夜中に世話をかけてしまった。
どんなに時間が経っても、傷はいえない。
心の傷に、時効なんて存在しない。
憎んでいるわけじゃないんだよ。でも、赦せないんだ。
「どうして、あんなこといったの?」って、何度も問いただしたくなる。
——それを答えてくれる人は、もうこの世にはいないんだ。
◆
「……いっちゃいましたね」
「いっちゃったねえ……」
男子たちに残されたわたしたちは、保健室で優雅にハーブティを飲んでいました。いや、だって芽衣子さん看ること以外、やることないですし。
無論、上田君の妹——玲ちゃん、といってましたっけ、その子のことも心配ですが、ケンちゃんたちがいっているなら、まあまず大丈夫だろうと思いました。
彼氏に対して過剰な期待かもしれませんが——おっといけない、頬が緩みそう。うふふ。
まあ、そっちはあまり気にならないのです。そんなことより、気になるのが……。
「何でその玲ちゃんっていうのは、こんな古い本を借りたんだろうねえ……武田君が修理しても、やっぱりシミがついて読みにくいし……。ってか、良くこの本修理しようって気になったねえ」
「そういえば……武田君も芽衣子さんも、見ていたわたしたちも、何かこの本修理しようって気になってましたよねえ……」
「今思えば、不思議だねえ。何でこの本修理しようって気になったんだろ、皆」
雪ちゃんが、首をかしげた時です。
ゴソゴソ、と、ベッドから起き上がる音が聞こえました。
「! ダメナコせんせー!?」
雪ちゃんが叫び声に近い声を上げた時、シャー、とカーテンが開けられました。
そこに立っていたのは、つい先ほどベッドで寝ていたダメナコ……じゃなくて、芽衣子さんでした。
「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」
キリッ、と無駄にカッコつけた顔で、最早恒例会話になってきた台詞を芽衣子さんはいいました。
「芽衣子さん、大丈夫なんですか?」
「ええ。コーヒー用意してくれないかしら。今ならウル●ラマンになれる気がするわ」
「ウ●トラマンって……コーヒー飲んでも三分しか保てないってこと? マズイじゃん」
雪ちゃんがすかさずツッコミますが、そこじゃないですよ。
起き上がりにコーヒー飲むとか、どんな身体の構造しているんですか、芽衣子さん。
まあ、それは心の中に押し留めておいて、わたしたちはさっさとコーヒーを用意したのでした。まる。
氷を入れたとはいえ、まだ少し湯気のたっているコーヒーに一口口にして、芽衣子さんはこういった。
「これ飲んだら、上田君の家へいくわよ。多分あなた達も事情を知っているでしょうから、準備して」
◆
上田君の家へ向かっている途中、わたしと雪ちゃんは変わりばんこに、今までの経緯を説明しました。
「……ふうん、そうだったの」
芽衣子さんは、意外とあっさり話を理解してくれました。
「じゃあ、今武田君と三也沢君と瀬戸君が、その子が居るかもしれないっていう場所に向かっているのね?」
「うん。確信はあんまないって三也沢君いってたけど、多分そこなんだと思う」
「わたしも、そう想います。だから、きっと大丈夫です」
雪ちゃんの言葉に、わたしも同意の言葉を添えた。
芽衣子さんは、「そっか」とだけいって、目の前にあるインターホンを鳴らしました。
『……ダメナコせんせー?』
スピーカーから聴こえたのは、上田君の声。
「ダメナコじゃないってば。光田芽衣子よ」
「せんせー、今それどころじゃないって」雪ちゃんがすかさず突っ込みます。
『何で、ダメナコせんせーがまた……』
「……ちょっと、玲ちゃんのことで、ね」
伏せ目がちに、芽衣子さんはいった。
スピーカーからでも判るほど、上田君は息を呑んで驚いた。