コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『卵は世界』更新】 ( No.271 )
- 日時: 2013/02/08 23:34
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
子供は、やっぱり生意気なんだと思う。
口先ばっかいって、行動力なんざありゃしない。それでも生きているのは、大人に守られているから。
けれどその分、子供は大人から与えられた選択から選ばなくてはならない。
大人は子供に「選ばせる」のではなくて、「選んでもらっている」のだ。
子供の選択が誤っていると感じるのなら、それは子供の責任ではなくて、大人の責任である。
——でも、それは子供が本当に弱いうちのこと。
卵を壊して雛が生まれるように、子供もその枠を壊す。
それは、かなり表立って出てしまうだろう(思春期のやんちゃな行動っていえば窓割り、って考えるのは古いかしら?)。
でも、それでいいのだ。決して褒められることじゃないかもしれないけれど、その人がやったことは殻を割ったことに過ぎない。
傷つけることも、傷つけられることも、
皆含めて、当たり前のことなんだから。
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」
雪ちゃんが不安そうな声を出したが、私はしれっと返した。
たった今、諷ちゃんが上田君の家を飛び出した。それは恐らく、私のいいたかったことを、理解したからだろう。
……私も、上田君のお父様も、こんなまどろっこい手段をとらなくたっていいのにね。
そうしてしまうのは、本好きの性か。それとも親バカだからだろうか。……どっちも、っていうこともあるかも。
いずれにせよ、あっちのことは、諷ちゃんに任せた。
私は、上田君とそのお母様とちゃんと話さねばならない。
「ねえ、上田君。玲ちゃんは、上田君にとってどんな存在?」
「大切な妹です」
キッパリと、上田君はいい放った。
「一人で留守番なんてしょっちゅうだった。あまりいいだせなかったけど、やっぱり退屈だった。世話する弟か妹が居たらなって、何となく思っていた。だから、凄く嬉しかった。玲が不登校だって聞いて、何とかしたかった。色々気を回した。…なのに!」
語尾を荒くして、上田君は叫んだ。
「どうしてなんだよ! 何処で間違っちまったんだ、俺は!? 俺は、アイツの、たった一人の兄なのにッ——!!」
堰が壊れたように思いを叫んだ上田君は、しかしすぐに口を塞いだ。
「……すみません」
「ううん、いいのよ」
気まずそうに俯く上田君に、私は首を振った。
けれど彼は納得してないようで、眉間にしわを寄せている。別に、悪いことじゃないのになあ。
——まだ子供なんだから、玲ちゃんも、上田君も。そんなに、気を負わなくて良かったのに。
もっと、寂しいって、つまんないって、不満をいい続けても良かった。
辛いことを、大人のせいにしたって良かった。
それをしなかったのは、それすら赦さなかったこの子と玲ちゃんの性格と、環境のせいなんだろう。
環境のせいで、そうならざるを得なかった子は、沢山居る。
でも、変わらずには居られない。
雛がやがて孵るように、彼らもまた、殻を割っていく。その変化はきっと、極端じゃなければダメだ。
それを、彼らは恐れている。
人に迷惑かかるんじゃないかとか、そんな風に。
「(……今回の事だって、多分その『極端な変化』なだけだろうに)」
責めるところなど、それに苦しむところなど、第三者である私には無いように見える。他人事のようだけど、でもそうにしか見えない。
だから、偉そうなことはいわないと決めた。
——昔私は、余計なおせっかいで三也沢君と諷ちゃんを傷つけたことがある。
その事実は本人たちの口から知ったが、薄々気付いていた。でも、ちゃんと事情を知った時にはもう遅い。後の祭りという奴だ。
大人は、子供に何かをさせようと思ってはいけない、ということがあの時判った。
出来ることは、道を示すことと、見守ること。子供の邪魔をしちゃいけないということ。これが第一なんだろう。
ただ、一ついいたいことがあった。
「確かに、どっかの誰かから見たら、貴方は兄失格かもね」
「……」
上田君が、何もいわずに私の言葉を真剣に聞いてくる。
その様子が何だかちょっとおかしくて(ホントに他人事だなあ)、私は口元に笑みを浮かべたまま、上田君の部屋を出た。
「でも、未熟な兄と、未熟な妹だったら、意外と相性いいんじゃないかしら」