コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『卵は世界』更新】 ( No.273 )
- 日時: 2013/02/08 23:38
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
◆
暑い。暑い。
痛い。痛い。
わたしは、どうしてこの足で走っているのでしょうか。
まだ慣れない義足で、どうして走ろうと思ったんでしょうか。
「った!」
ギシ、という不吉な音が立った。
……義足は壊れていないようです。「飛んだりはねたりしちゃダメ」っていわれたけど、意外と何とかなるもんですね。
でも、痛いことには変わりが無かった。
「(……どうして、こんな足になったかな)」
つい、自分の運命に毒吐きたくなる。
あの時、確かに足を切断すると選んだのはわたしです。それに悔いはありません。でも、これとそれとは話が全くの別物。何だかバランスが取れなくて、転びそう——。
「うわ!」
思ってる傍から思いっきり転びました。
ズテ、と火傷するようなアスファルトと、顔をぶつける。熱い。
「っつ——……」
痛い。
膝小僧は、擦りむいているだろう。持っていた本を庇って、左腕も思いっきり擦りむいたかな。
熱い。
仕方が無い。炎天下の道路の上に寝そべっているのだから。
苦しい。
多分、初めて走ったんじゃないかな。物心ついたときには、布団の上で寝ていたし。
「(……なんだ。わたしって、本当に何も出来なかったんですね)」
転んでから、やっと身に感じた。
寝てばっかりだった頃も、幽霊だった頃も、何も出来ないといっておきながらも、何一つわたしは判っていなかったんだ。
「(一つ、賢くなったかな)」
なんて、バカみたいなことを考える。
……ホント、今真面目にやっていることが、実はとんでもなくくだんないことなんじゃないかと思ってしまいました。
「(……いや、実にくだらないかも)」
他人の家庭事情に踏み込んだり、他人の問題に首を突っ込んだりして。
自分には関係ないのに、寧ろ全然、彼らの気持ちなんて、判らないのに。
それでも、何かしなければという気持ちが、消えていない。
昔、父から「生まれなければ良かった」といわれた。
その時、わたしは「わたしが居ないほうが、皆が幸せになれる」と思った。
どれだけ、あの時のわたしは臆病で、浅はかだったんだろう。仮にわたしが居なくなっても、本当に幸せになれるか居なくなったわたしには判らないのに(……いや、幽霊になればいいかも。あ、それでも居なくなったことにはならないか)。
わたしだって、あんな風に生まれたくはなかった。
もっと、ちゃんとした身体で生まれて育ちたかった。普通に、皆と一緒に過ごしたかった。
あの家族に、生まれたくなかった。
……までは、いえないかもです。
どうしても、どうやっても、憎むことなんて出来ないよ。
赦すことは出来ないけど、憎むことも出来ないよ。
好きだった人たちの家に、生まれなければ良かったなんて、やっぱりいえない。