コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『卵は世界』更新】 ( No.274 )
- 日時: 2013/02/08 23:42
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
「(……ああ。玲ちゃんも、こんな気持ちだったのかな)」
幾ら引きこもっても、登校拒否しても、本当は学校に行きたかったんじゃないでしょうか。
行きたくない、と思っても、学校生活に憧れを持っていたんじゃないでしょうか。
お母様と喧嘩しても、やっぱりお母様のことが好きで。
だから、自分が居ないほうが迷惑がかからないんじゃないかと——……。
「(そうやって、自分を抑えていたのかな)」
それだけじゃないかもしれない。
でも、それもあるでしょう。
「今なら、玲ちゃんの抱えているものが、何だか少し判った気がするんですよ」
自分にいい聞かせる為に、そう呟いた。
こんな風に、惨めに倒れて、改めて気付いたような気がしました。
幾ら相手の気持ちを想像しても、やっぱり中々判らないものですね。逆にこんなことで、判るような気がするなんて。
だからこそ。
「ごめんなさい、わたし——、やっぱり……」
内心、院長先生を始めとする、わたしのリハビリに付き合ってくださった方々に謝罪を述べながら、わたしは腕の力で上半身を起こした。
……後、義足にもごめんなさい。まだ使って一年も経ってないのに、壊してしまうようなことをしてしまいます。
とにかく、走る。壊れるようなことがあったとしても、切断面から血が流れてきたとしても、走る。
義足を壊してしまうかもしれない、後皆に怒られるかもしれないという諸々の罪悪感と謝罪を持って、立ち上がろうとしたその時——。
「あれ? 何やってんの、宮川さん」
「……たち、ばな君?」
——自転車に乗った、橘君が後ろに居た。
あまりの不意打ちに、今さっき意気込んでいた気持ちが鎮まる。
「……どうしたの? 学校は?」
「いやそれ宮川さんにもいえるけど」
橘君が、眉間にしわを寄せて突っ込みました。……そういや、そうでした。
「もう学校終わったよ。それよりどしたの、こんな暑い中アスファルトに座ってるなんて」
「あ……実は」
かくかくしかじか、と説明すると、橘君は驚きながらも、あっさりと理解してくれた。
……意外と皆、物分りと頭の回転が良いですね。
橘君はちょっと考えてから、自転車を止めて、荷物台に引っ掛けていた荷紐を解いた。そして、重そうな鞄を——あろうことか、草むらに放り投げた。
「!?」
「これでよーしっ。さ、乗って宮川さん!」
笑いながらパンパン、と荷物が置いてあった台を叩く橘君。
「え、ちょ、二人乗りは違反だよ……? というか、荷物そこらへんに投げていいんですか!?」
「ダイジョーブダイジョーブ。オマワリさんはここらへん通らないし、荷物も財布は入れてないから」
「いや、そういう問題じゃ……」
「いいからいいから」
尚いい募ろうとするわたしを、笑いながら遮る橘君。
その笑みに……何かもう、どうでもなれと思ってしまったわたしは、諦めて荷物台の上に座った。
「いいの? わたし重いですよ?」
「大丈夫っすよお嬢様! 橘酒造の第十五代目の跡取り息子橘徹! 何時も父と母と後小うるさい兄たちにどやされて、何時も何十キロもある米を毎日往復——何回だっけ? まあいいや! とにかく、力とスピードには自信ありまっせ!」
「おお、頼もしい」
おどけながら、わたしは嬉しくて笑う。
ああこんなにも、不甲斐ないわたしを助けてくれる人は居るんだな、と。
呆れながらも内心嬉しいと感じているわたしは、ケンちゃんと同じツンデレなのだろうか。
「では、行きますよー! 捕まっといてください、お嬢!」
「はーい」
わたしはしっかりと、上田君のお父様が残された本を抱きしめた
(ケンちゃんばっかりには、良い思いさせないし)
(それに……助けたいなあ)
(わたしに出来ることがあるなら、やりたいなあ)