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Re: 臆病な人たちの幸福論【詩をいただきました!(感涙】 ( No.282 )
日時: 2013/02/11 15:03
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode



 ——だが、キミと俺とは、一つだけ決定的に違う所がある。
「(……なに?)」
 ——それは、生きているか死んでいるかさ。キミには、自分で死ぬ勇気が無い。
「(それは……)」



 その通り、だった。
 あたしは、死ぬことが怖かった。
だって、痛そうでしょう? 飛び降りたり、首を吊ったり、手首を切ったり。
 そんなこと……出来るわけなかった。


 ——じゃあ、俺に委ねてごらん? 俺だったら、キミを楽にしなせてやる。
「(……本当に?)」
 ——ああ、本当さ。


 ……死。
 ぼんやりと、あまり考えなかった死について考えてみた。
 死ねば、どうなるんだろう? 怪談とか、小説の世界のように、幽霊になったり、天国へいけたりするのかな。……あたしの場合は地獄かも。
 死ねば、あたし楽になれるかな。
 そしたら、パパと同じ場所に、いけるのかな……。


「(……いいよ)」


 あたしは、彼のいうことに逆らわなかった。
 もう、何だって良いや。生きたって、どうせあたしは邪魔でしかないんだから。


 ——おお、本当に良いんだね?
「(……もう、どうだっていい)」


 ここまで来たら、どうでも良くなっちゃった。
 あんなに、怖かったのに。あんなに、捕まりたくなかったのに。……疲れちゃったよ。


 ——じゃあ……。


 その言葉が合図に、今までとは比べ物にならない脱力感が、あたしを襲った。
 苦しい、でもない。辛い、でもない。けれど、安堵でもない。
 ただ、死ぬんだなという思いだけ。


 蝉時雨が、静かな森に、良く響く。
 木々の隙間を埋めるように、激しく、激しく。
 やがてその蝉時雨も、遠く聴こえるようになってきた。
 指の先も、足も、瞼も眉一つすら動かせなくなっていく。
 暑いはずなのに、指の先から徐々に熱を奪われていくような気がした。
 頭が、ぐつぐつとスープのように溶けていく。止まらなかった思考は、ぐるぐると同じところを行ったり来たり。
 そんな、意識が朦朧としている中、はっきりと、声が聞こえたんだ。










『——本当に、お前はそれでいいのかい?』

「(え?)」


 モヤとは、別の声。それも、真摯に満ちた、優しい声。


『お前は、本当にいいのかい? 大好きな友人が出来たのに、それを傷つけたままで。大好きな家族が増えたのに、置いていって。何も成し遂げないまま死んで、それでいいのかい?』


 聞いていくだけで、冷たくなった指先が、じわじわと熱くなっていく。
 安心できる声に、視界がだんだんとハッキリ見えるようになった。
 それと同時に、あれだけ遠く聴こえた蝉時雨も、——それをかき消すような、人の声も。


「おーい! 上田の妹—!」
「そ、そんな風にいったら逆に出てこないったい!」
「いやでもこんな広い森三人でどうやって探せと!?」


『ほら、聞こえただろう?』
「(……誰? あたし、知らない)」


 知らない人の声。多分、あたしと同じくらいの男の子のモノだ。
 その人たちが、あたしを呼んでいる。……上田の妹っていってるから、お兄ちゃんのお友達かな?