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Re: 臆病な人たちの幸福論【詩をいただきました!(感涙】 ( No.286 )
日時: 2013/02/11 17:01
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
参照: ああハニー……セドリック生きてたのに闇堕ちィィ!!!(ウワアン!!



「(武田、君……?)」



 ——あれほど謝りたくて、仲直りしたかった武田君が、あたしを庇ってくれたことが、何よりも重要なことだった。
 そう、庇ってくれたのは、武田君だったのだ。パパがいった、『助けてくれる人』は、武田君だったのだ。

 どうして、ここに武田君が? とか、どうして嫌ってた武田君が庇ってくれたの? とか、驚きや恐怖、嬉しさが混ざり混ざって、更に思考回路を複雑にさせた。


「……大丈夫、ですか?」


 顔は良く見えなかったけど、少し低くなった声は焦りと恐怖が滲んでいた。
 少しだけ夢かと思ったのに、その声で夢じゃないのだと確信した。


「少しだけど、黒いモヤが見えて、咄嗟に動いたんですけど……」
「(あっ……)」


 今の彼には、あれが見えないんだ。
 そんな、見間違いかもというレベルのことで、あたしを庇ってくれた。
 怒ってるんじゃないかと。傷ついているんじゃないかと。
 その傷は、一生治らないんじゃないかと思ったのに。
 だから、今まで人と関わることが怖かったのに。


「(怒ってるんじゃ、ないの?)」



 もう、ワケが判らない。
 その傍から、さっきあたしを呼んでいたと思われる人たちが、傍に駆け寄ってきた。
 覆われていたから、顔は見えないんだけど。


「武田! 何があった……ってうわ!! 何だあの黒いモヤ!」
「気持ち悪うを通り越して、キモイったいねあれ!!」

 ——黙レェェェ!!

「わ、返事返しやがったぞあのモヤ!! 幽霊かよ!?」
「幽霊ってゆーより、怨霊じゃなか!?」


 なんて、のん気な人たちだ。あたしは呆れた。
 あれを見て、あたしは恐怖でいっぱいだったのに、全然怯えもしない。


 ——フザッ……ケルナァァァァァァァァァァ!!


 ぶちぎれたモヤが、再びあたしと武田君に狙いを定める。


「(ああ、もう……)」


 どうすればいいのかなあ、あたしは。
 何をすれば、正解なのかなあ。
 というか、何が原因で、悩んでいたんだっけ。……判んない。忘れちゃった。
 あれだけ苦しかったはずなのにな。あれだけ悲しかったハズなのにな。
 だから原因を突き止めようとして、悩んだ。でも、その結果がとっても散々。

 なんか……どうでも良くなっちゃったよ。



「(なっちゃったんだけど……なあ)」



 場違いにも、ため息をつく。

 ——知らない人が来たら。パパの声を聞いたら。
 今まで、ずっと会いたいって思っていた武田君にあったら。



「……戻りたいよね」



 声に、出していた。

 ずっとずっと、一生の友達が欲しかった。
 けれど、そんなの叶うわけがないと、諦めていた。
 ずっとずっと、家族みんなで過ごしたいと思っていた。
 けれど、それは叶っちゃいけないものだと思い込んでいた。

 でも、武田君にあって。毎日が楽しくなって。
 ずっとずっと、何時までも続いていけたら。そんな風に望んでいた。

 怖いけど、普通に学校に行けるようになりたい。
 普通に、外に出歩けるようになりたい。
 ちゃんと、ママと、お兄ちゃんと。くだらないことで、話し合いたい。
 小さなことでもいい。あの時のように、毎日幸せを見つけたい。


 そんな風に、望めたあの頃に、戻りたい。



「あたしは……」



 ううん。









「——戻るんだ!!」



 今度は、望みなんかじゃなくて。
 ちゃんと、掴み取りたい。自分が望んでいたことを。
 ……答えは何時だって、凄く単純なことだった。
 けれど、それを受け入れようとすると、自分が壊れそうで怖かった。


「(もっと早く、逃げずに受け止めれば、こんなに苦しむことは無かったのに)」


 自嘲が零れた、気がした。



 叫ぶと、モヤは吹き飛んでいった。
 それと同時に、あたしのモヤも、消えて行ったような気がした。
 晴れ晴れとしていって、あたたかいものに満たされていくような気がした。

 モヤ——ううん、山田さんのように、あたしもあんな風になっていたかもしれない。
 でも逆にいうならば、山田さんもあたしのようになれたかも知れなかった。
 かき消されていくモヤを見て、あたしはぼんやりとそんなことを思った。


 あたしが山田さんのようになれなかったのか、山田さんがあたしのようになれなかったのか。



『もう一度いうが、玲』


 その疑問に、パパが答えた。


『あのモヤと違って、お前はたった今殻を割ったんだ。なら、見渡せるはずだ。高いところから、沢山のモノを。高いところから見たら、小さなモノを見つけることは難しくなるけれど。でもそんな時は、望遠鏡を使えばいいだけのこと』


 パパの声が、少しずつ、少しずつ消えていく。


          『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』





            けれど、ちゃんと届いたよ


(そうだね、パパ)
(見渡せば、沢山のモノがあるね。沢山、助けてくれる人たちが居るね)

(悲しくても、孤独に感じることなんて、一つもないね)