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Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.288 )
日時: 2013/02/13 16:08
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)



 あたしには、壁がある。
 その原因は、自分にあることぐらい、判っている。
 でも、それを自分の責任として背負うことほど、あたしは強くなくて。
 でも、誰かのせいにするのも怖くて。
 辛くて悲しくて、寂しくて弱かった。


 こんなあたしの願いを、聞いてくれませんか?
 とんでもないワガママなあたしですが、聞いてくれませんか?



「もう一度……友達になってくれる?」



 今すぐに、あたしは、あたしの欠点を直すことは出来ないと思うの。
 約束破ったり、謝罪する時も笑ってしまうかも。そんなこと、きっとまた、同じことしちゃうかも。二度目はないっていい聞かせても、してしまうかも。
 今、完璧な人の和の中に入れば、あたしはきっと不純物になってしまうと思うの。
 だから今まで、人と接することが、怖かった。

 ……でももう、このままでは居たくない。



「あたしがヘマしたら、遠慮なく怒っていいから。バカにしたっていいから。……元々からバカだけど。とにかく、手荒でいいから。……もう一度、友達になってくれる?」



 初めて、喧嘩した相手だからこそ。
 初めて、仲直りをしたいと思った友人だからこそ。
 初めて、大切な友人なんだと、実感されられたキミだからこそ。

 ……ああもう、歯がゆいなあ。
 形容できないこの気持ちを、どうやったら伝えることが出来るの?
 大切な友人に伝えなきゃ、意味がないのに。



「……顔、上げてくださいよ」



 抑揚の無い武田君の言葉が、頭上に振った。
 怒ってるかな。赦してくれないかな。
 そう不安と恐怖を持ちながら、恐る恐る、顔を上げる。

 ——けれど、見たのは武田君の驚いた表情だった。


「(……?)」


 珍しく、ハッキリとした表情を見せた武田君。
 いや、それよりも。どうして彼は驚いているのだろう?
「どうしたの?」そう聞く前に、彼があたしに聞いてきた。


「何で……何で、泣いているんですか?」


 ——え?
 武田君の言葉に、今度はあたしが驚いた。
 頬を撫でてみると、確かに液体が頬を伝っていた。


「あ、あれ?」


 ゴシゴシ、とあたしはそれを拭う。
 けれど、涙は全然止まらない。
 ああ、そうか。あたし怖くて、泣いちゃったんだ。
 カッコ悪いな。こんな時に、何で泣くの?

 武田君は、戸惑っていた。その様子に、凄く申し訳なくて。
 ごめんなさい、と謝る前に、ポン、と頭に手が乗った。
 ポン、ポン、と、その手はテンポ良く離れたり、置かれたりする。

 ——武田君に慰められているのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

 ああ、何か悔しいなあ。
 泣き虫なあたしを、バカにしているみたいで。
 絶対、今まで友人関係が続いていたら、「バカみたいに泣くんですね。そろそろミイラになっちゃうんじゃないですか?」っていうに決まってる。
 でも、嬉しいなあ。そんな風に思う自分にも、悔しさを感じるよ。
 悔しいけど、嬉しくて。
 涙は、止めようとする度にあふれ出していった。







「……バカみたいに泣くんですね。そろそろミイラになっちゃうんじゃないですか?」


 暫くして泣き止んだあたしに、予想通りの言葉を武田君はいった。
 ……うん、悔しいのにやっぱ嬉しい。あの頃に戻ったみたいで。
 エヘヘ、と思わず笑うと、フイ、と武田君は顔を背けた。


「あ……ごめん!」


 そうだった。ホントは謝罪しなければならない立場だったのに、思わず笑ってしまった。ああもう、あたしってば進歩ない。
 慌てて謝ると、「そういうわけじゃないです」といい返された。でも、顔は中々こっちに向いてくれない。


 ——……気分、悪くしちゃったかも。
 そう思って、もう一度謝ろうとした時だった。


「……本当に、覚えていませんか?」
「え?」
「二年前じゃなくて、もっと昔。僕たちが、五歳くらいだった時のこと。僕があの木のくぼみの中で泣いているとき、キミはピンク色の傘を差して、僕に話しかけてくれました。


 そういって、武田君はくぼみを指差した。


「(え? あたし、二年前よりも前に会ってる……け)」


『どうして、ないてるの?』


 脳裏に、幼い頃の自分の声が木霊した。


『ねえ、ナマエなんていうの?』
『あ、そっか、『ひとのナマエきくなら、まずじぶんから』だね!』


 少しずつ、ぼんやりとした記憶が、鮮明になっていく。
 と思ったら、急に早く流れて——。







『また今度会おうね!』


 ——記憶が、早送りしたビデオのように、流れ込んできた。



「(そうだ……あたし、会ってた! この木の下で……武田君と、会っていた!!)」



 思い出した。あの時のこと。まだ、自身のことを、『玲』と呼んでいた頃。
 ママと一緒に行く予定だったピクニックにいけなかったこと。
 暇だったから、傘を差して一人でここを歩いていたこと。
 そしたら、一人の男の子が泣いていたこと。気になって、声を掛けたこと。

 あの男の子が——武田君だったんだ!!