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Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.291 )
日時: 2013/02/13 18:06
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)


 休日、俺とフウは約束どおり、一緒に過ごした。

 ……といっても、俺はフウに町案内をしただけだが。
 なぜかというと、行方不明事件解決後、フウが「ケンちゃんたちを追っかける為に走った時は気付かなかったけれど、そういやわたし、どの道をどう行けば何処にたどり着くか、ちゃんと把握していませんでしたー」とかいいやがったからだ。


「(まさか、フウが橘の自転車の荷台に乗ってまで追いかけてくるとはなあ……)」



 あれを思い出すたび、少し肝が冷えた。
 フウ曰く、「走っている最中、橘君に乗せて貰った」とのこと。つまり橘がこなかったら、義足がぶっ壊れるまで走っていたかもしれないということ。
 取り合えず、ごたごたが終わった後叱ったが、これからも何か無茶しそうでコワイ。後、俺より男前になっている。
 ……ごめん、こっちが本音だわ。
 まあ、とにかく。グダグダ感が否めないが、その件は一件落着。ちなみに今日は適当に町を歩いて、瀬戸が働いている喫茶店で食ったりしたぐらいだった。それでも、俺の隣を歩いている姫は大喜びだ。
 夕暮れになったので、そろそろお開きにしようと話していたとき、フウがある方向に指を差した。
 目で追いかけると、そこは公園。フウが指差していたのは、ブランコだった。



「あ、ブランコ」
「何ですか? あれ」



 フウの質問に、驚く俺。だが、すぐに思い出す。
 ——そうだった。こいつは、今まで五十年以上も眠っていたんだ。
 物心ついてからずっと床の上だったらしいし、幽体となっても、ずっと学校の中。学生や教師の会話から、世間についてのことは妙に詳しくても、ブランコとかは知らなかったんだ。
 キラキラと、好奇心旺盛な目で聞いてきたので、俺は観念した。どうやら、お開きをするには、もう少し先らしい。
 ブランコに座って、漕いでみせる。



「あ、振子の原理ですね!」
「そういうこと」



 フウが納得してくれたので、ブランコを止める。



「これ、前や後ろに人が居るときはあまり飛ばすなよ。相手が怪我する」
「うん、判った」



 俺が注意すると、フウはしっかりと頷いて、隣の席に座る。
 そして、ゆっくりと漕ぎ始めた。
 ゆらゆら、ゆらゆら。
 スピードは遅い。限りなく遅い。だが、フウはそれで満足のようだった。



「うっわ〜……気持ちいい」
「……そうか」



 フウの喜んでいる姿を見たら、もう何もいえない。






「そういや、フウ。あの二人、一体どうなったんだ?」
「ん〜……武田君と玲ちゃんでしょう?」


 慣れてきたフウは、立ち漕ぎしながらいった。


「まあ……芽衣子さんから聞くには、玲ちゃんこっぴどく怒られたんだって」
「それは俺らにもいえるけど」


 俺たちも、勝手なことして、と大人に怒られた。そりゃもう、凄い勢いで。
 けれど俺たちも、そしてどうやら上田妹も、校長の一声で助かったのだ。


「『まあ、無事でよかったじゃないですかー』……ホント、変態だけど校長は色んな意味で懐広いな」
「ね。校長先生がいなかったら、ちょっと大変だったかも」


 クスクス、と笑うフウ。
 だがフウは、急に顔を引き締めた。


「……フウ?」
「……今回、何で行方をくらませたか、聞くことが出来たんですけど」


 玲ちゃん、黒いモヤに追いかけられていたんですって。
 その言葉に、俺は息を呑んだ。

 黒い、モヤ。
 俺も瀬戸も、見えた。黒いモヤが、二人を覆おうとした所を。
 喋ったところを見ると、多分あの黒いモヤは、俺たちの常識じゃ預かりしてない現象だったのだろう。
「ここからは、わたしたちしか知らないんですけど」フウはそう前置きした。


「玲ちゃんは、その黒いモヤは知り合いの幽霊っぽいものじゃないかな、っていってました。あの森では、自殺者が集まって、遺体がよく転がっているらしいんです。それを集めていたカルト集団の一人が、儀式をする為に、わざわざ自分の身体を贄にしたと」
「……は?」
「あ、勿論、本当かどうか判らないって、玲ちゃんはいっていました。モヤに取り憑かれていた時、そんな記憶が流れ込んできたらしいんですけど、それもとち狂った自分の妄想なんじゃないかなって、本人は思ってるようです」


 慌てて、フウが付け加える。


「でも……そのカルト集団の人が、あの森で自殺したことは確かです。昔、玲ちゃんは武田君から「あの森に入るな」って約束していたらしいんですけど、ちょっとした事情で破っちゃって、入ったところ、たまたまその遺体を見てしまって。それで、長いこと武田君とは仲違いしたと……武田君もいっていたでしょう?」
「確か、そんな風にいってたなあ」


 俺は、もう一度ブランコを漕ぐ。
 ……多分、上田妹がいっていることは、恐らく真実ではないだろうか。自殺したカルト集団のことは武田に聞いていたので、俺も気になって調べてみた。ら、かなり有名な団体で、本当に生贄を捧げるレベルで黒魔術っぽいモノを行っていたみたいだった。