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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.292 )
- 日時: 2013/02/13 18:09
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
……でも、何で。
「何がしたかったんだ、そいつ? 儀式ってことは、何かを成し遂げたいからするんだろう? なのに、どうして自分の命すらも使うなんて……」
変な話だと思った。それじゃ、本末転倒じゃないか。
そう思っていると、立ち漕ぎしていたフウが、座って話し出した。
「……それほど、追い詰められていたんじゃないでしょうか」
「……」
急に落ち着いた声で話し出したので、俺は口を閉ざす。
「その人がどんな人生を歩んでいたかなんて、わたしには到底想像できない。でも、彼のより所が、その集団だったんじゃないでしょうか。儀式を行ったのも、その為に命を捨てたのも……集団というものが本当に自分の全てだったからじゃないでしょうか。勝手に人の命を奪うことが悪いことなんて思わないのが集団の価値観で、だからこそ自分を見失っちゃったんじゃないでしょうか」
「まあ、やっぱり、真実なのかどうなのかは、わたしには確かめる術はありませんが」そうフウは付け加えた。
フウの言葉に、最近話題になっている「いじめ」のことを思い出す。
一人ぼっちが怖くて、だから強いリーダーの下に皆が集まる。そして、リーダーが気に食わない人間を、大人数で攻撃する。リーダーの下に集まっているモノたちは、やっている最中はそれを悪いことだとは思わない。寧ろ、当たり前のことだと思っている。
それは多分、自分の頭で考えてはいないんだろう。自分の価値観というより、「集団の価値観」だ。
まあ、人はそれぞれだし、いじめの発祥もそれだけじゃないんだろうが(元々意地悪な人も居るだろうし)。けれどそう考えると、いじめ等の、思春期の「歪み」は、ある意味仕方がないものなのかもしれない。
「(……いや、歪んでない人間なんて、居ないだろう)」
俺はそう思い直す。何故なら、俺も、昔はかなり歪んでいたと思うからだ。
自身を「歪んでない」と言い張る人物は、多分それすらが歪んでいる。
ひょっとしたら、間違えたら俺も、そいつの様になっていたかもしれない。
そいつのことを、酷く滑稽なやつだと思っていたが、思い直さないといけないな、と思った。
でも。
「……だからといって、人を傷つけていいわけじゃない」
思わず、口に出していた。
かなり突拍子な返事だったにも関わらず、フウは「そうですね」といってくれた。
「……そういえば、ケンちゃんはデミアンを読みましたか?」
「え? ……あー、そういや読もうとして、挫折した記憶が……」
フウの問いに返すものの、語尾が濁っていく。
……いやー、俺とドイツ文学とは、どうやら相性が悪いらしい。
フウも、「わたしも、実は読み通しただけでよく判らないんですけど」と返してきた。
「でも、『鳥は卵の中からぬけ出そうと戦う』っていう台詞らへんは、知ってるでしょう?」
「そりゃまあ……有名だし」
そういうと、フウはクスリと笑っていった。
「新●文庫版でわたしも読んだのですが、第五章のサブタイトルにもなっているんですよね。その中に、「神的なものと悪魔的なものを統合する」っていうのがあるんですよ。まー、説明はめんどくさいので割愛しますが、要は、人は善も悪も受け入れるようにならなければならない、って感じかな。『鳥は卵の中からぬけ出そうと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという』……が、台詞というか、紙に書かれていたというか。あーもう、ここも割愛」
「なんじゃそりゃ」
「ま、まあともかく! そのアプラクサスっていう神様は、神様でもあるけれど、悪魔でもあるという、善でもあるし悪でもあるってことなんですよ」
フウは続ける。
「それを読んでいる時、何となく+と−の計算を思い出したんですよね。0を基点にするなら、+が大きすぎても−が大きすぎてもダメ。だって0は、+でも−でもないから。+の絶対値が大きかったら−を足したり、−の絶対値が大きいなら+を足したり。そうやって——削ったり、増やしたりしたりして、作っているんじゃないかなって。——ごめんなさい! わたしじゃ上手く説明できません!!」
「いや、いいたいことはよーく判った」
自分のイメージと比べると、上手く言い表せなかったんだろう。だが、何となく俺にも判った。
……それを説明するのは出来ないし、絶対にしたくないけど(絶対に疲れる)。