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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.293 )
- 日時: 2013/02/13 18:14
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
「まあ、そんな感じってところです!! それよりも、ケンちゃん!」
「うお!? 何だ!?」
自棄になったフウが、無理やり話を打ち切らせる。そして、こんなことを聞いてきた。
「何でケンちゃんは、玲ちゃんとは会ったことないのに、玲ちゃんの旧姓を知っていたんですか!?」
……あー。
「そのことかあ……」
俺は呟いた。そういや、武田に事の真相を聞くために、上田妹の旧姓をカミングアウトしたっけ。瀬戸が興奮して「何でしっとると!?」と聞かれたけど、その事に答える暇がなかったから、後回しにしたんだった。そうだ、すっかり忘れてたわ。
まあ、別に聞かれたって困らないんだけど。
「いやー……俺さ。上田たちの親父さんに会ってるんだよ」
「ふえぇ!?」
フウが驚きのあまり、立ち上がった。砂埃が回りに飛び散る。
……まー、そう来るよな。普通。
「親父さんが死ぬ直前、うちのバカ母の病院に入院してたからな。それで、用事があって病院に来たとき、暇つぶしに話し相手をしてくれたんだよ」
「知らなかった……というか、不意打ちを食らった気分です」
そりゃあ、そうだろうけれど。
俺だってビックリだよ。すっかり忘れていたことが、この事件に巻き込まれた途端思い出したんだから。縁というものは凄いものである。
「それで、なーんか妙に、自分の家族を話していたんだよなあ……別に嫌じゃなかったけれど。まるで、俺がこの事件に立ち会うのを予測していたみたいに」
——すると、フウがブランコを止めた。
「……ん?」
「……ぶっちゃけ、そうかもしれません」
フウがいう。
検討つかない俺は、この後、フウの爆弾発言に、大いに驚かされた。
フウが持ってきた本は、本当は図書室の本で処理されるハズのものを上田の親父さんが譲り受けたらしい。そしてその本は親父さんが亡くなった後、上田の手元へ。
だがしかし、図書室の本を返す時、間違ってその本も返してしまったらしいのだ。
そこまでは、フウたちから聞いていた。
しかし、謎が残る。
それは譲る時でも捨てる時でも、「バーコードと貸し出し本のデータは処理をする」ことをしなければならないことだ。
ダメナコは二年前に学校の司書を務めたらしいので、その前の人になる。その人がどんな人かは、俺たちには知る由もない。凄くずぼらな人だったかもしれない。だが、バーコードはともかく、本のデータすら消されていないのはおかしい。
あの事件の後、フウとダメナコは不思議に思って、あの本のデータを調べようとした。ら。
「……消されていたんですよ。綺麗サッパリ」
——なかった、らしいのだ。
「勿論、ダメナコせんせーも、武田君も、雪ちゃんも、パソコンのデータをいじってなんかいません。なのに、パソコンからは綺麗になくなっていたんです」
「……ええー」
「まだまだ、謎は残ります。どうして、玲ちゃんはわざわざ、あの図書室に足を運んだのでしょう? デミアンの本なら、市立図書館を使えば何冊か新しいのがあるはずです。それに、どうして、わたしたちはあんなに古い本を捨てようなんて思わなかったんでしょう? それどころか、直しようもないあの本を直さなければ、とすら思ってしまった。それは、偶然としては出来すぎてはいませんか?」
「……つまり、お前は、全て亡くなった親父さんがなんかしていたと?」
そんなバカな、なんて笑い飛ばすことは出来ない。
フウのいうとおり、あまりにも出来すぎている。これらの疑問を一つ抜かしていれば、全く別のことが起きていたかもしれないから。
不思議な力が、引き寄せたような気がしてならない。
「……全部が必然だとは、思えないけれど。全部が偶然だったというのも、ありえないような気がします」
そういって、フウは俺の前に立った。
「ケンちゃんは、今回の事件について、どう思いましたか?」
「え……うーん、まあ」
お騒がせな野郎だぜ。ぺっぺ。
「……ぐらいには思ったけど」
そういうと、フウは噴出した。
……なんだ、一体。
「そういうフウは?」
「あ、わたし? わたしは、不謹慎かもしれませんけど——とっても、素敵なことだったな、って思います」
素敵なこと?
どういう意味が判りかねない俺に、フウは続けてこういった。
「悪いことも怖いことも、悲しいことも苦しいことも。多分いっぱいあったんでしょうけど。でも結局、良い結末になったでしょう?」
「まあ、聞いている限りは」
「でもそれは、武田君も玲ちゃんも、決して自分だけの力じゃないと、理解しているはずです。直接助けられたわけじゃないけれど、見えないところで、知らない人や力が、引き寄せてこんなに良い結果になったんだと思います」
——見えない力が。見えないところで。
知らない人が。知らないところで。
それでも確かに、自分に影響を持たさしている。
今回も、きっとそうなのだろうと、フウはいった。
例えこの世を去っても、親父さんは、しっかりと父親の役目を果たそうとしたんじゃないかと。
「確かに、その追いかけたモヤの幽霊さん——は、はた迷惑でしたけど。玲ちゃんが家出しなければ、わたしたちも怒られずにすんだと思いますけど。でも、その悪いことと良いことが綱引きみたいに引っ張って、こんなに良い結末になったとしたら——」
「それはとても、素敵なことじゃありませんか?」フウは笑った。
なびく髪がうすく、茜色に染まる。綺麗だな、と素直に思った。
確かに、そんな風に人が繋がっていると考えられるなら。
それは、とても、フウがいうとおりに、素敵なことなんだろう。