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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.294 )
- 日時: 2013/02/13 18:19
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
「……でもやっぱり、親父さんも普通に伝えればよかったのにな」
上田妹じゃないが、そう思ってしまう。
そういうと、「そういえば」とフウが続いた。
「わたしも死ぬ間際、お父さんと過ごす時間が増えていました。まあ、過ごすといっても、勝手に部屋に入って、一緒に緑茶飲んでおしまいだったんですけどね」
「……それはまた」
「ホント、何がしたいか判らないでしょう?」
フウが苦笑いする。
流石のコミュ障の俺も、これには苦笑い。
「多分、娘に何かしたかったんでしょうね。あの時は全然判らなかったけど——でもそれが、あの人の愛情表現だったのかなって、今では思います」
そういって、フウは目を伏せる。
「……そんな父から、『生まれなきゃ良かった』といわれたことがあります」
「……!」
そういえば、前にそんなことを聞いた覚えがあった。
けれど、改めて聞くと、それはとても重い。ましてや、病弱だった彼女は、自分の存在が足手まといだということに気付いていた彼女にとっては、重すぎる言葉だった。
「昔は衝撃過ぎて受け止めれなかったんですけど。今だって、あの言葉を赦したわけじゃないんです。……でも、不思議ですね。時が経ってみれば、今、楽しい時間を過ごしていると……凄く、家族と過ごした想い出は手放しがたくなっていたんですよ」
「その時、やっと気付いたんです」フウは、片手を出していった。
「無理に、変えようなんて思わなくていいんだって。無理に、思い込むこともしなくていいって。必ず、辛かった想い出も悲しかった想い出も、大切になっていくから。……わたしが焦り続けたからこそ、見えなかった出来事だなって、今じゃそう思うんです」
そういったフウの笑みは、自信で満ちていた。
——そう、考えていたんだな。
俺は、遠くを見るような思いで、フウの言葉を聞いていた。
フウは、何時も危なっかしい行動を取るけれど、本当は何時も真剣に考えているんだな、と思った。
そうやって、沢山の出来事に出会いながら、自分のことと照らし合わせて、ちゃんと考えていたんだな。
俺も何時か、フウのように思えるだろうか。
バカ母にいわれてきたことを、されてきたことを、そうやって、赦せるようになれるだろうか。
辛いことすら辛い、といえなかった俺が。そんな風に、素直に受け止められるだろうか。
冷たい風が、流れる。
ここは、夏の昼は暑いが、夜はかなり寒くなる場所だ。
そろそろ帰ろう、といおうとした時、フウが「ねえ」と聞いてきた。
「……ちゃんと玲ちゃんに、伝えたいこと、伝わったかな」
不安げに、笑みを浮かべながら聞く。夕陽に照らされたフウは、何処か儚げに見えた。
彼女の不安は、恐らく上田妹のこれからのことだろう。
不登校の原因がなくなったとはいえ、やはりトラウマは根深いものだと俺も思う。すぐに、教室に向かうことは難しいはずだ。それに高校は、義務教育じゃない。退学はあの校長はしないだろうが、留年はありえるだろう。
それに焦りを感じて、また上田妹が苦しむことにならないだろうか。だから、俺にも、自分の意見をいったんだと思う。
今、俺が「素直に大丈夫」といっても、多分こいつの不安は取り除けないだろうから。
「……欲張りすぎたんじゃないか。聞いてるだけでも、頭がパンクしそうだったぞ」
「やっぱり?」
フウが、不安げな笑みから苦笑いに変わる。
「……でも、ちゃんと」
伝わったと思うよ。
何だか照れくさかった為、視線を少しずらしてそういった。
そしたらキミは、嬉しそうに微笑んだ。
「きっと、何とかなるよ」
「そうだね」
(夕陽が、町を染めていく)
(それは素直に、綺麗だなと思えた)
(明日は、晴れるだろう)