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Re: 臆病な幽霊少女【泣き虫な文学少年編 完結】 ( No.30 )
日時: 2012/10/16 16:15
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)

 怠惰な女性司書


「つい最近までは、暑い、暑いっていって、冷えピタとうちわとアイスコーヒーが欠かせなかったのに、最近じゃカイロと腹巻とホットコーヒーが欠かせなくなったわね」

「働けば少しは温かくなりますよー、ダメナコせんせー」

「私の本名は光田芽衣子よ、メイコ。大丈夫、図書委員であるキミが私の仕事を全て終えているうちに、私は暖房とコーヒーのお陰で温かくなっているわ」

「結局働く気なしなんですね、せんせー」

 何時もの放課後、何時もの図書室。
 私の発言に、図書委員である雪ちゃんが、古い本を処理しながら苦笑いでいった。






「ねえ、雪ちゃん。あの子最近来てないんだけど、どうしてる?」

 ふと思い出した私は、聞いてみた。

 真っ先に脳裏に浮ぶのは、冷めたような瞳を持っているくせに、気遣いだけは大人以上に見せる優しい青年。

 三也沢健治。それが彼の名前だ。

 一年前のこの頃までは、図書委員で仕事をしてもらったし、しょっちゅう遊びに来ることが多かったけれど、最近はパタリと来るのを止めてしまったのだ。

 まあ、あの子図書委員辞めちゃったし、来る回数が減るのも仕方がない。それに、今はこうして雪ちゃんが働いてくれるから、私はのんびりとコーヒー飲んで過ごせる。働く? 私の辞書にそんな文字はない。

 雪ちゃんはピタリ、と、処理する手を止めていった。

「……昨日、奥の部屋に来ていました」

「え、ホント?」

 雪ちゃんの問いかけに、私は少し驚いた。

 まさか昨日来ていたとは。どうして連絡してくれなかったの……ってあ、私出張だったじゃない仕方ないじゃない。

「声に出てますよ、せんせー」

「え、まじか」

 雪ちゃんの言葉に、思わず口を塞ぐ。

 私は良く、気付かないうちに独り言を漏らすみたいだ。

「……せんせーは、どうしてそんなにも三也沢君のことを気にかけるんですか?」

「あら、三也沢君へのやきもち?」

「逆です。せんせーにやきもちですよぅ……」

 プウ、と頬を膨らませる雪ちゃん。と思ったら、すぐに顔を真赤にさせて、照れくさそうに下を向く。

 内緒の話なんだけれど、雪ちゃんは三也沢君に想いを寄せている。全く、司書とはいえ教師である私に自分から話して照れるなんて、積極的なのか、ウブなのかわからない。

「そうねぇ……色々あるんだけれど」

 首を傾げる雪ちゃんの手元から、私は優雅に(ここ重要)仕事道具をかっさらった。

「とりあえず紅茶でも飲みながら話しましょう。あまり働きすぎると身体に酷よ」

 パチン、と片目を瞑ってみせる。

「せんせー……」

 恍惚とした瞳で、雪ちゃんが見てきた。

 が。

「逆にせんせーは働かないとだめだと思う」

 真顔でいらぬツッコミが返って来た。

 ……意外と気を使ったのに、グスン。

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