コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 臆病な人たちの幸福論【『自戒予告』更新!】 ( No.312 )
日時: 2013/02/24 11:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)

 少し、車に揺さぶられて、たどり着いたのは山の中。
 お盆の日。俺こと三也沢健治は、(何故か)光田一家と一緒に、お墓参りをしにいくことになったのである。




                    蛍火の川、銀河に向かって【前編】





 なんで、家族でもないのにこうなってしまったのだろう。
 様々なことに突っ込みたいが、まあお盆といってもなにもないし、こうして二泊三日に着いていく事になった。無論、光田一家には、フウ、ダメナコ、そしてダメナコの旦那という構成である。


 ダメナコの旦那——光田耕介は、今回待ち合わせの際に、初めて会ったんだが……。



『……』
『……』
『いや、何か話しなさいよ』


 何時もは限りなくボケるダメナコが、珍しく突っ込んだ。
 ——……ダメナコの旦那って聞くから、相当アンニュイな人かなと予想はしていたが……。
 年のせいか(いやそれでも若い)艶はあるのに黒い髪には所々白髪が混じっており、真っ赤な目は——。



「(し、死んでる! 目が死んでる!!)」



 こんなに目が死んでいる人、初めて見た。
 ビックリしすぎて、自己紹介するのも忘れていた。まあ、そんなこともあったが、それはさて置き。






「うわー! やっぱり山の中は素敵ですねー!」


 さっきまで、車酔いでへたれていたフウだが、外に出た途端元気に駆け回っていた。子供のようにはしゃぐ姿は、見ているだけで……少し疲れる。少し。

 俺も、車から出てみた。
 目に優しい、深い緑。そこから漏れる、優しい日差し。やっぱり暑いが、木々の隙間から涼しい風が吹いてくるので、心地よい。蝉はアブラゼミぐらいで、そこまで五月蝿くはない。
 ……うん。フウが一気に元気になれる理由も、判った気がした。


「わぁ! 意外と早かったね!」
「おうおう! やっと来たか、遅ぇよおめえら」


 全員が車に降りると、正反対のことをいう夫婦が向かってくる。
 白いノースリに長ズボンという山の中では無難な格好をした男のほうは金髪(多分染めたのだろう)で、俺より少し高く、強面だが愛嬌ある目をしていた。一方、主婦らしく半そでにジーパンを履いて上にオレンジのエプロンをかけた女の人の方は、フウよりも高く、穏やかでおっとりとした、無表情ならば人形といってもおかしくないほど、綺麗な人だった。外国人の血を引いているのか、くすみのない銀髪に、木々の葉のような碧眼を持っていた。



「お久しぶりです。虎太郎さん、柊子さん」



 ペコリ、とダメナコが頭を下げる。その姿に、俺は驚いた。
 ダメナコって、敬語使えたんだな。


「ちょっと、それどういう意味よ」
「え、聴こえてた!?」
「図星か!!」


 怒ったダメナコが、俺の首に腕を巻きつけて絞めた。
 だんだん、ダメナコが超人になっていくような、そんな気がしてならない。——んなことより、苦しい! しまってる!


「あれぇ? その二人は…?」
「ああ、ご紹介します。この子は、今年私の娘になった、諷子です」


 グイ、とフウを突き出すダメナコ。


「は、初めまして!」


 急に話を振られたせいか、それとも柊子さんに見惚れていたのか(どちらも気持ちは判る)、顔を真っ赤にして、どもりながらフウはいった。


「わあ! 可愛い子だねえ、メイコちゃん!」
「ええ、そうでしょう? 目に入れても痛くない、優しくて気立てのいい子なんですよ。——んで、このクソ生意気な子は、諷ちゃんの彼氏です」
「クソ生意気は余計だ」


 柊子さんに褒められて上機嫌でいった前半とは違い、後半から明らかに嫌味を込めたダメナコに、俺は首を絞められながらも睨んだ。
 というか、改めて彼氏といわれるのも、何だか照れる。顔には出さないけど。


「そかそかー。オメーの娘、中々やるなー」


 ニカ、と人当たりの良い笑みを虎太郎が浮かべた。
「でしょう?」それに対して、ダメナコもちょっと意地悪げに笑う。


「こんにちは。美馬作柊子です。今日から、よろしく! だよ」
「柊子の旦那、美馬作虎太郎だ。普通に虎太郎って呼んで構わねぇからな!」
「あ、はい! 宮川諷子といいます。今日から、お世話になります」
「三也沢健治です。よろしくお願いします」


 中々、フレンドリーな自己紹介である。どう見たって、美馬作夫婦は光田夫婦より外見も中身も若い。
 早速、家を案内するといって、広い庭を歩いている時、俺はこっそりダメナコに聞いてみた。


「……なあ、ダメナコ。あの二人、一体何歳なんだ? アンタは敬語使ってたけど……」
「……えっと、息子さんである朝陽君のその娘さんが、今の貴方たちより年上だから……多分、五十は軽く超えてるハズだけど」


 ダメナコの言葉に、絶句した。
 少し小さな悲鳴が出たけれど、それも蝉の声にかき消された。