コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『自戒予告』更新!】 ( No.313 )
- 日時: 2013/02/24 12:04
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
「さあて、まずは墓参りに行くかー」
「そうだな」
「……で、花束は?」
「あ」
一通り荷物を片付けた俺たちは、早速揃って墓参りに行くことになった。
が、しかし問題があった。なんと間抜けなことに、花を買うことを誰一人覚えていなかった。仕方がないので、耕介さんがふもとまで降りて買いに行くことになってしまった。
「うちの庭から取ればいいのに」と柊子さんはいったが、ダメナコは「竜胆の花を渡そうって、そう決めたので」といった。すると、二人とも「そっか」と、何処か寂しげに頷いた。良く判らないが、それで収まったらしい。花を買うついでに、お菓子も買いに行くといっていた。ふもとまで車で三十分で着くようなので、今は待機中なのである。
「そういえば、芽衣子さん」
「んー?」
縁側で団扇を仰ぎながら、フウは聞いた。
「芽衣子さんや、耕介さんのご両親は? てっきり、私はご両親の元に行くのかと……」
「あー、私と旦那の両親ね。そういや、二人にはいってなかったっけ。私ら、駆け落ちなのよ」
「あー、成程—駆け落ちですかー……って」
「あー、そうなのか……って」
ダメナコがケロリ、というので、思わず俺たちは流されそうになった。
「ええええええええ!?」
「五月蝿いわよ二人とも……」
俺たちの驚きの声より、気だるいダメナコの声が、やけに広い家と庭に響いた。
「まあ、正確にいえば……」
要約すると、こうだ。
まず、ダメナコと耕介さんは高校で出会った。それも教師と生徒だそうだ。勿論、結婚することになったのは、大学を卒業してからである。 しかし、ダメナコの母親は頑として許さなかった。
ダメナコの両親は当に離婚しており、その理由が父親と水仕事をしている女性との浮気。そのせいで、母親の潔癖症は、異常になってしまったらしい。
「とにかく、『男』ってものが穢れてるって思ってる人だったからねえ。結婚の時も、相手が自分の教師だったってことも拍にかけちゃったんだろうけど、どうせあの人、どんな相手でも私が結婚するの、許さなかったと思うわよ」
「良く、無事でしたね芽衣子さん……」
「本とコーヒーがあれば生きていける」
壮絶な過去を聞いて、感嘆の声を上げるフウに、ビッ、と親指を立てるダメナコ。
話を続けよう。ダメナコの母親が裁判に持ち込む、というぐらいの脅迫なら、ダメナコもまだ耐えれたらしい(これ以上上手くならなかったらそれこそ裁判に持ち込むつもりだったらしいから)。しかし、会う回数を重ねるごとに、母親の脅迫はエスカレートしてきた。しまいには、「早く別れないとあの人殺すわよ」と。
その脅迫に、危険を感じたダメナコは、耕介さんをこの家に匿った。そして、こっそりその脅迫を録音し、警察に叩きつけたらしい。
「……それって、どこら辺が駆け落ち?」
「駆け落ち以外に、言葉が当てはまる?」
「駆け落ち以上に、壮絶だと思います。当てはまらないと思います。根本的に違うと思います」
フウのいう通りだ。この場合は、実の母親を警察に渡したに過ぎない。
というか、実の母親が娘の結婚相手を殺すってどんな小説だ。これ一応コメライなんだが。
「……で、精神検査で異常の値が出たから、ただいま母親は入院中。それ以来、ずーっと私は面会謝絶。まあもっとも、会いに行くつもりはないんだけどね。ちなみに、旦那の方の両親は、元々息子に無関心らしくて、顔も合わせたくないってあの人いってた」
「それで、二人の口から実の両親の話が出なかったわけですね……」
「ロクでもない人ばっかりだったからね。勿論、そんな人だけじゃないけど」
そういって、ダメナコはちょっと笑う。
「私も……美馬作夫婦に会わなかったら、どうなってたか。結婚する時も色々と、一緒に考えてくれたわ。子供のときは、沢山ここで学んだ。息子が亡くなったときも、慰めてくれたっけ……」
最後らへんは、すぼんでいた。
耐え切れなくなったのか、ダメナコは顔を伏せて、庭の方を見る。