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Re: 臆病な人たちの幸福論【第四部更新スタート!】 ( No.316 )
日時: 2013/02/27 21:39
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)



 ムシャムシャ。
 ムシャムシャ。




「まだまだあるから、たんとお食べ」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとう、おばちゃん!」


「(……で、これは一体どういうことだ?)」



 俺は、今までの経緯を思い出してみる。
 ——が、隣でムシャムシャとスイカを頬張ってるフウと少年を見ると、集中力が所々切れてしまった。


           蛍火の川、銀河に向かって【中編】



 お盆休み、俺こと三也沢健治は何の間違いか、ダメナコたちと一緒にダメナコらの息子のお墓参りに来ていた。
 だが、俺とフウはダメナコに追い出されて(?)しまい、仕方がなく適当にその辺を散策していたのである。
 ——そしたら川の傍で、ダメナコの息子が立っていた。それも、少し成長した姿で。
 俺たちは呆然として硬直し、どうやらあちらもこちらを見て呆然として立ちすくんでいたところ、何故か傍にいたおばさんに「あら貴方たち兄妹? 良かったらスイカ食べない?」的なことに誘われて、そのまま押し流される形に——。


「……のんびりスイカ食ってる場合かぁぁ!」
「はっ! そうだった!」


 俺が叫ぶと、少しむせて、フウも我にかえった。
 俺たちだけに聞こえる様に、至近距離で話し合いを即効行う。


「(なんだよなにがあったんだよどうしてここにダメナコの息子が!? しかも成長してるし!!)」
「(わ、判らないよ! しかも大輝君、このスイカをくれたおば様にも見えているみたいですし!)」
「(お盆だから!? お盆だからか!?)」
「(いやでもだからといって、他の人にまで見えるのは少し腑に落ちません!!)」



 だよなあ。
 俺の場合は、フウが見えたり上田妹を襲っている怨霊っぽいのが見えたりしたから、今回見えてもおかしくはない。フウは前まで幽体だったし。
 けれど、今は明らかに普通のおばさんに見えている。それに、この少年は死んで少し成長した姿になっている。ひょっとしたら、ダメナコの息子にそっくりな、全く別の人間じゃないだろうか。
 聞きたくないような、聞きたいような気持ちで、どうしようかと葛藤していると、フウが丁寧に聞いた。



「あの、わたしの名前は宮川諷子といいます。貴方の名前を聞いても、いいですか?」


 すると、少年は食べる手を止め、礼儀正しくこちらを向いた(ただし口の横にはスイカの種がくっついていたから)。


「光田大輝」



 ——ビンゴ!!
 ほぼ間違いないだろう。本人だ。
 多分、フウもそんなことを思ったのだろう。しかし、平然を装い笑顔で、優しく尋ねる。


「大輝君は、どうしてここに? お母さんとお父さんは?」


 そう聞くと、大輝は困ったような顔をした。
 不思議そうにするフウだが、大輝はただ、寂しそうに微笑むだけ。
 いいたくない。刺々しくはないが、はっきりとした拒絶の態度に、俺もフウもこれ以上聞けなかった。
 ただ、この子は確かにダメナコの息子だな、とも理解した。
 もう死んでいるんだな、ということも。


「ねえ、フウコおねいさんとおにいさんは、ここの人じゃないよね?」
「あ、そうだよ。しりあ……家族のお墓参りに来たの」


 フウが、知り合いといいかけて「家族」といいなおした。
 それは、ただ単に、家族と称したかったのだろうか。
 それとも、「親が居ない」という大輝と、何かつながりを持っていたかったんだろうか。俺は、後者じゃないかなと思った。
 こんな寂しそうな少年を、放って置けなかった。


「……そっかあ」


 やはり寂しそうな顔で、大輝は呟いた。そしてそのまま、スイカに意識をむけ、また食べ始める。
 フウも、同じように、スイカを食べるのを再開した。









「あら、もうスイカなくなっちゃってるじゃない!」


 ちょっとしてから、おばさんがトマトやらキュウリやら(それもかなりでかい)を籠に詰めて持ってきた。


「あ、おばさま。スイカとっても美味しかったです。ご馳走様でした」
「おばちゃん、ありがとう!」
「……ご馳走様でした」


 フウが丁寧に、大輝が元気良く、俺は慌てて、それぞれお礼をいった。
 おばさんは頬に手を当てて、いいのよー、と笑う。


「ねえ」
「なんでしょう?」
「いや、私ねえ。貴方たちのこと、てっきり兄妹かなって思ったんだけど……ひょっとして、貴方たちアベック?」


 ブッハーッ!
 俺は思いっきり、飲んでいた麦茶を噴出した。
 一方、フウはポカンとしている。


「アベック? ……なんか聞いたことあるけど、どんな意」


 長い年月を過ごしていたせいで、最近のこと以外は意外と忘れているのだろう。尋ねようとするフウの口を、慌てて塞いだ。


「むぐー! むぐーっ!」
「あら。今の若い人たちは、アベックって言葉は使わないのかしら?」


 おばさんが不思議そうな顔をした。いや、アベックってもう殆ど死語です。
 と思ってたら、大輝が、


「あー。僕も二人とも、アベックだと思ってたんだよ」
「何でお前がその言葉しってんの!?」


 大輝の口からそんな言葉が出ているのにビックリして、更にフウの口を塞いでいた手に力を込める。
 いやだって、こいつ亡くなった時点で五歳だろ? つまり平成生まれだろ? どう考えたって俺たちより遅く生まれてるだろ? っていうかアベックって何時の時代の言葉だっけ?