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Re: 臆病な人たちの幸福論【第四部更新スタート!】 ( No.317 )
日時: 2013/02/27 21:42
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)

 軽く混乱していると、大輝がニンマリとした顔でいった。


「で、何処までいったの? A? B? ひょっとしてC——」
「お前何時の時代の人間だマセガキぃぃぃぃ!!」


 それってリーゼント頭の人たちが跋扈していた時代じゃねぇかぁぁぁ!! 死語どころの言葉じゃねぇぇぇ!!
 ってかCって! どんだけ卑猥なことダメナコは教えてんの!? 大事な息子じゃなかったの!? ホントあの人何してたんだ!!


「え……その真っ赤な顔、まさか——」
「するわけねえだろ!? ってかそんな際どいことホイホイいっちゃいけねえっての!」


 はた迷惑だと思うが、怒鳴らずには居られない。流石にこれはマズイ。いくらなんでもマズイ。
 すると、大輝はキョトンとしてこういった。


「え、際どいの? お母さんから教えてもらった言葉なんだけど、良く意味が判らなくて——」
「判らねぇならいうな! ってかいっちゃいけません!! 今後死ぬほど恥ずかしい目に遭いたくなかったら、これから絶対いっちゃいけない!」


 黒歴史どころの問題じゃない。本気で死ぬほど恥ずかしい目に遭うから。
 ——……あーでもコイツ、亡くなってるんだよな。ならいいのか?


「ね、ねえ……」
「何ですか!?」


 たじっていたおばさんが、ビクリと震える。
 鏡がなくなって、今の俺はさぞかし恐ろしい人間に見えるだろう。
 スイマセン。でも流石に今余裕ありません。
 おばさんはけれど、果敢にも俺にこういった。
















「その……女の子、窒息しそうよ?」
「……あ」



 すっかり、フウのことを忘れていた。
 慌てて、フウの口から手を離す。すると盛大に、フウがむせた。


「ケホケホッ! し、死んだかと思った……」
「す、すまん!」


 慌てて謝罪するが、フウはこちらを見ずにいた。
怒っているかな、と思ったが、表情を見る限り、そこまで怒っても居ない。
 ホッとしていると、フウは、淡々とこういった。



「……花畑に流れてる大きな川の向こう岸に……亡くなった家族の皆が……にこやかに手を振ってた……」
「……」
「あまりにも爽やかしすぎて、蹴っ飛ばしたくなった……」
「……本当にゴメンナサイ」



 フウの恐ろしい一言一言に、きちんとした謝罪をせざるをえなかった。
 見ていた大輝もおばさんも、深々と頭を下げて謝った。

 蝉時雨は、まだまだ続く。










「……軽く死んだと思ってるとき、アベックって言葉の意味を思い出しました」


 ムシャムシャとキュウリを食べているフウが、そういった。
 さっきは余裕がなかっただけで、だんだんと怒りが露になってくる。


「なんであんなにムキになって止めたんですか?」
「いや、まあ……人様に仰々しくいうもんじゃないだろ……」


 フウのもっともな発言にばつが悪くて、俺はキュウリを食べることに専念した。
 ただいま、引き続きおばさんの家の縁側で、三人並んでキュウリを食べている。なんだこの絵面。


「……橘君からは、『お前の彼氏惚気すぎてこっちは砂糖吐く勢いなんだけど』といってましたけど」


 フウの爆弾発言に、あやうくキュウリを丸呑みしそうだった。
 未遂で終わったが、やはりむせた。


「ゴホ! ゴホッ!」
「うわ、大丈夫!?」


 大輝とフウが慌てて身を乗り出して心配してくれた。が、むせた苦しみは中々終わらない。
 やっとこさで止めた俺は、か細い声で「お前だってダメナコにからかわれて顔真っ赤にしてたじゃないか……」というと、フウは「あ、あれは!」と声を荒げた。


「あれは! ただ真正面にいわれてビックリしただけでッ……!」


 苦しいいい逃れをするフウに、少しカチンときた。


「やっぱお前もそうじゃん。今さっきの俺もそんな感じでしたー」
「な! ムカツキます!! その語尾伸ばし凄くむかつきます!!」


 売り言葉に買い言葉。ギャーギャーギャー、と論点がずれていき不毛な争いをするまでに至ってしまった俺たちを止めたのは、間に挟まれていた大輝だった。


「……挟んで、イチャイチャしないでおくれよぉぉぉ!!」
「イチャイチャしてない!!」



 大輝の言葉に、俺とフウの声が重なった。
 俺たちの不毛な争いはとりあえず止まったが——今度は一人巻き込んで、三つ巴の戦争になりそうだった。
 しかし、それも、すぐに止められる。









 パシャリ。

 木々の中では絶対にありえないその音に、俺たちはピタリ、と固まる。
 フウの後ろから聞こえたので見てみると、そこにはカメラを構えたおばさんが一人。
 俺たちは呆然としてしまった。
その様子に、爽やかな笑みを浮かべて一言。


「……学生夫婦の喧嘩に挟まれたやんちゃな息子の像」


「ご馳走様でしたー」ペロ、と年に似合わずされど様になっているおばさんの笑みに、俺たち三人は真っ赤になって叫んだのだった。