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- Re: 臆病な人たちの幸福論【第四部更新スタート!】 ( No.318 )
- 日時: 2013/02/27 21:44
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
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あの後、何とかして写真を消してもらいたかったが、年の功というやつだろうか。軽く丸く収められた。
ついでに、「貴方たちの写真撮らせてくれない?」といってきた。最初はやっぱり断ったが、敢え無く惨敗し、仕方がなく写真を撮られることにした。おばさんはシャッターを押すたびに、「これでご飯三杯はいけるわよ!!」とわけ判らないことをいっていたが、気にしないようにした。
その後、嬉しそうな顔をしたおばさんが、「これ持っていきなさい」と、沢山の野菜をくれて、その家を後にしたのである。
そろそろ三時になっていたので、このまま帰路を辿ろうと思った時、傍には大輝が居た。
「ん? お前もこっちなのか?」
そういうと、大輝はコクン、と頷く。
するとコッソリ、フウがこんなことをいった。
「(ひょっとしてお盆ですから、芽衣子さんに会いに行くつもりかもしれません)」
「(マジかっ。でも、コイツは死んでいるんだろ? ダメナコがコイツと会ったら、ダメナコビックリして卒倒……ダメナコの性格からしてそれはないか。でもかなり大騒ぎにはなるんじゃないか?)」
死んだ人間がいきなり現れるんだ。それはビックリするだろう。
「(そもそも、さっきいいましたが何故あのおばさんにも見えたのかが不思議です。お盆だからといって、幽体だったわたしの姿を見た人は、全然居ませんでしたし)」
「(……お盆の学校って人が居るのか?)」
「(たまに、羽目を外した生徒たちが乗り込むんです)」
意外な情報を聞いてしまった。が、今はそれどころじゃない。
どうしよう。このまま会わせてもいいのか? いや、会ったほうが大輝もダメナコも嬉しいだろうけれど。
——何か、とてつもなく、嫌な予感がした。
結局、どうすればいいのか判らずに、俺たちは美馬作夫婦の家に戻ってきた。
庭に足を踏み入れた途端、美馬作夫婦は駆け寄ってくる。
「おお! 早かったじゃねえか!」
「もっとゆっくりしていても良かったのに……って、あら?」
虎太郎とは正反対のことをいった柊子さんだが、俺たちの足元に居る大輝に気付いて、声を潜める。
マズイ、と俺は反射的に思った。最悪の状態が目に浮かんだ。
が、柊子さんは、俺の予想とは違う行動を取ったのだ。
「あー! もう来たんだね、大輝君!」
「遅いじゃねえか、大輝!」
正反対のことをいいながら、けれど同じく眩しい笑顔でいう虎太郎と柊子さんに、大輝も「今年もお世話になります」と深々と頭を下げた。
——予想外すぎて、俺は目を瞬かせる。
隣を見ると、フウも驚いた表情でいた。
「じゃあ、先に家に入っていてね!」
「うん、わかった」
柊子さんの言葉に素直に従った大輝は、広い庭を横切り、洋風と和風が組み合った家に入っていった。
驚いたまま立っていると、「驚いたでしょ?」と柊子さんがいった。
「流石に、生霊だったことがあるっていっても、死んだ人がいきなり現世に現れているんだから、ビックリするよね」
「……え」
「ひょっとして、柊子さん、アンタフウのことを知っていたのか……?」
確かに、フウが冬眠状態から復活できたことは新聞などで一時期書かれたが、流石にフウが生霊だったことは書かれていない。
俺が聞くと、柊子さんは「メイコちゃんに聞いた!」と笑った。
「大輝君ね、実は何時もお盆になると、柊子たちのところに遊びにくるんだよ。ここらへんの土地って、何だか特殊みたいで、お盆帰りで来る霊たちは、案外皆に見えるみたい」
「え……ええええ」
ビックリな情報に、俺とフウは驚きすぎて若干口が開いていた。
「まあ、世の中には不思議なことなんて、沢山あるよ。一々気にしない気にしない!」
その様子に、ニヒヒ、と柊子さんは笑って、人差し指と親指で俺たちの口を塞ぎながら、こういった。
「そうだそうだ。こんなことで腰を抜かすなんて、肝が小せぇ奴らだな!」
虎太郎が加勢する。いや、腰は抜かしてません。驚いただけです。
「しかたないよ、こたろうクン。……でも、今年は楽しそうだな」
「だな」
柊子さんの満面な笑みに、虎太郎も笑う。
「なんせ、今年はやっと息子の墓参りに来た母親が居るモンな。そいつに会えるとなると……」
「絶対嬉しいよね、二人とも!」
そういいながら、二人は俺たちに背を向けて家に戻っていく。
——その、あまりにも普通の態度に、ようやく、また非日常的なことに巻き込まれたな、と実感した。
「(というか、なんであんなに普通なんだ……)」
年のせいか? 年のせいなのか?
それとも彼らは、実は「そっち」の人間なのかもしれない。謎だらけな夫婦だったが、更に謎が上書きされた。
——けれど。
それはどうでもいいことだな、と、巻き込まれた自覚を実感した際に思う。
フウも、ポカンとしていたが、やがて微笑んだ。どうやらフウも、同じことを考えていたようだ。
交通事故で息子を亡くし、悲しんだダメナコ。
亡くなった大輝は、ずっとずっと、ダメナコが墓参りにくることを望んでいたであろう。
その二人が、やっと会えるんだ。
細かいことは、どうでもいいかな、と思った。
そう思うと、心が少し和んだ。
——あの時の嫌な予感を、すっかり忘れるほどに。