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- Re: 臆病な幽霊少女【怠惰な女性司書編 二話更新!】 ( No.32 )
- 日時: 2012/10/16 18:05
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
◆
「で、まあ、こんな感じよ。出会いは」
「……結構普通な出逢いでしたね」
「うん、そうなんだけどね」
雪ちゃんの言葉に、私は苦笑いした。
「……私の子に。表情がとてもね、良く似ていたのよ。」
まるで、死んだはずの子が、大きくなったようで。
死んで少し経った後だから、余計に重ねちゃって。
彼のことが気になって、声をかけた。
「だから、ちょっと特別ってワケよ。勿論、雪ちゃんもね」
「…あたしも?」
キョトン、とした顔で、雪ちゃんが聞き返す。
「……私と話そうとする相手は、キミと、あの子だけだから」
そういうと、雪ちゃんは酷く苦しそうな顔をした。
……息子を失って、他の教師は私を傷物扱いしてるのだ。すると、話す人間は限られてくる。
ちょっとの間、引きこもり生活をしたせいか、近所の人たちとの交流もなくなってきた。
「それに、雪ちゃんも娘のようだから。だから、話せて嬉しいのよ」
だから、そんなに苦しまなくていいのよ。
キミが、気を病むことはないから。
言葉にせずに、ただ気持ちを込めて、私は笑った。
すると、雪ちゃんも、すっと、穏やかな顔になった。
私も、微笑み返した。
◆
さて、ここからは雪ちゃんには話していないことである。
あれは、一年前の、冬近くの秋。
その日は、息子の命日だった。
でも、私はお墓参りには行かない。
誕生日もいっていない。お盆には主人が行っている。
写真も全て燃やした。息子が使っているものは、全て捨てた。
これ以上、思い出すだけでも、辛かった。
だから、コーヒーを飲んだりお菓子を食べたり、たまに仕事をする事で、忘れることにした。
実際忘れていた。今日が命日なのも、
「あ、そういえば今日が息子の命日だったわ」
と、軽くいっておしまいだった。
「え」
ピシ、と三也沢君が固まった。
「あら、三也沢君にはいっていなかったっけ。私、息子亡くしているのよ」
「いやそれは聞いていたけど!! 命日!? は初めて聞いた!」
あらそう、とコポコポとコーヒーを注ぐ。
「……命日なのに、いってやらないのかよ」
「墓参り? 生憎、仕事があるのでね」
「その仕事をしているのは俺なんだけど」
三也沢君は、固まった手を動かし、古本のバーコードを切り取る作業に戻った。
「……なあ、そういや何で俺がアンタの分働いてるんだ?」
「それが図書委員の仕事だからです」
アイスコーヒーを飲みながら、しらっと私は返す。
「いやいやいや、新本の整理とか古本の整理とか予算の整理とか、明らかに司書の仕事じゃん!!」
「チッ。ばれたか」
「隠してたつもりだったの!?」
今さっきとはうってかわっての違う雰囲気。
私は少し、ほっとした。
あの子は、初めて逢ったころよりも、もっともっと明るくなっていた。
初期は、会話もほぼ成り立たなかったしね。最初のあの会話が成り立ったのは、奇跡に近いって本気で想うわ。
まあ、元々明るい子だったみたいだから、奇跡も必然ってところかしら。意味が判らない? ごめんなさい。
「……はあ、わけわかんねぇ、大人って」
「私としては何故キミが私に敬語を使わなくなったのかが気になるわ」
「使う必要がないって判ったから」
「酷い」
「子供が仕事をしている時にコーヒー飲んでいる大人なんかに敬意を表したくない」
……まあ、遠慮がなくなってきたのはいいことなんだけどね?
こう、ビシバシ突っ込まれるのも、ちょっと傷つくんだけど。